第II部 製造の科学
機械と設備
I macchinari e le attrezzature
これまでの章で語ってきた工程——殺菌・熟成・凍結・硬化・保存——は、いずれも機械があってはじめて成り立つ。本章では、それぞれの工程を担う機械の原理と選び方を、特定のメーカーに寄らない一般論として整理する。
冷やすとは、熱を奪うこと
すべての機械の根っこにあるのは冷凍の原理である。ここを押さえると、なぜ機械がその形をしているのかが見えてくる。
大切な出発点は、「冷やす」とは冷たさを加えることではなく、熱を奪うことだという事実である。液体が蒸発するとき、まわりから熱を奪って周囲を冷やす——手のひらのアルコールがひやりとするのと同じ原理だ。この蒸発と、蒸発した冷媒をもう一度液体に戻す凝縮とを繰り返すのが、冷凍機である。
この四つの部品——圧縮機・凝縮器・膨張弁・蒸発器——に、冷やす量を制御するサーモスタットが加わる。ジェラート工房のあらゆる冷たい機械が、この同じ仕組みの上に立っている。凝縮器で奪った熱を捨てる方式には空冷と水冷があり、設置環境で選ぶ。
四つの心臓部
工程の流れに沿って、機械は大きく四つに分けられる。第6章・第7章で見た工程が、そのまま機械に対応する。
| 工程 | 機械 | 温度の目安 |
|---|---|---|
| 殺菌・均質化・熟成 | 殺菌機 | 加熱68〜85℃ → 4℃で保持 |
| 凍結(マンテカツィオーネ) | マンテカトーレ | 出口 −6〜−8℃ |
| 硬化 | 急速冷凍機 | −22℃前後へ急冷 |
| 保存 | 保存庫 | −22℃前後 |
| 提供 | ショーケース/ポッツェッティ | −13〜−14℃前後 |
機械区分・温度は前章までの照合値と対応。加熱の下限68℃は日本の法令が定める製造基準である(第6章)——機械の設定可能範囲ではなく、下回ってはならない線として読んでほしい。
殺菌機(pastorizzatore)は、加熱殺菌・均質化・4℃での熟成を一台でこなす(第6章)。マンテカトーレ(mantecatore)はミックスを撹拌しながら凍らせる要の機械である。急速冷凍機(abbattitore)は硬化を担い、氷結晶が育つ臨界温度帯を素早く抜けさせる(第7章)。そして保存庫(conservatore)とショーケース(vetrina)が、作った構造をそれぞれ低温で守り、適温で提供する。
熟成タンク — 殺菌機を空けるための器
熟成は、殺菌機の中でも行える。四つの心臓部で殺菌機を「加熱殺菌・均質化・4℃での熟成を一台でこなす」と書いたのは、そのとおりだからである。だが一台でこなせることと、一台で足りることは違う。
熟成には一晩を与えたい(第6章)。そのあいだ殺菌機は熟成の器として塞がり、次の仕込みに使えない。日に一度の仕込みなら問題にならないが、回数が増えれば、この占有がそのまま生産量の天井になる。熟成タンクを別に持つ理由は、機能ではなく時間にある。
費用の面でも分がある。熟成タンクと殺菌機とでは本体価格に大きな開きがあり、運転にかかる費用も目立って低い。電源につなげば動く自立型が普通で、冷凍ユニットを内蔵し、たいていは空冷である。
選ぶときに一つ、見落としやすい分かれ目がある。ミックスを何度で受けられるかである。冷却済みのミックスしか受けられない型があり、その場合はおよそ15〜20℃まで下げてから移すことになる。一方、80〜85℃のまま投入できる型もある——冷却まで引き受ける器で、「冷却熟成タンク」と呼ぶほうが正確である。前者を選べば冷却は殺菌機の側の仕事として残るから、殺菌機を空ける効果はそのぶん小さくなる。どちらが合うかは、一日に何回仕込むかで決まる。
熟成タンクの位置づけ・費用・受け入れ温度の二つの型は専門文献で照合。
マンテカトーレ — 型が決めること
マンテカトーレは、凍結シリンダーが床に対して垂直か平行かで、縦型と横型に分かれる。どの型でも、冷却面で凍る氷を掻き取りながら細かな結晶を保ち、同時に空気を含ませていく——その狙いは共通である。違いは、何が回るのか、どう冷やすのか、そしてそこから先の扱いに出る。
縦型には、さらに古典型と現代型がある。古典型の縦型は、この機械の出発点にあたる。ミックスを入れる筒(sorbettiera)がジアテルミック液に浸かり、筒そのものが自軸で回る。取り出しはスパチュラを使う手作業で、取り出しごろを知らせる仕組みも持たない——できあがりは、作り手が見張って判断する。それでもこの型を選ぶ職人がいる。具の入った果実のジェラートや、ストラッチャテッラを作るためである。
現代型の縦型は、同じ愛着に応えて作り直されたものである。旧方式から残ったのはシリンダーが垂直であることだけで、筒はもう回らない。回るのは撹拌子で、冷却も液を介さない直接式になった。この作り替えによって、扉を開ければスパチュラなしで取り出せるようになり、取り出しごろを知らせる仕組みも入った。
横型は動作が単純である。ホッパーからミックスを入れ、盤で種類を選んで起動し、終わりを信号が知らせる。あとは扉を開けてカラピーナやvaschettaへ受ければよい。

| 古典型の縦型 | 現代型の縦型 | 横型 | |
|---|---|---|---|
| 回るもの | 筒ごと回る | 撹拌子のみ | 撹拌子のみ |
| 冷却 | ジアテルミック液を介す | 直接式 | 直接式 |
| 装填 | 上から注ぐ | 上から注ぐ | ホッパー |
| 取り出し | スパチュラで手作業 | 扉を開けて排出 | 扉を開けて排出 |
| 取り出しごろ | 知らせない(見張る) | 知らせる | 知らせる |
型の区別と各型の扱いは専門文献で照合。
現代型の縦型と横型は、取り出しごろを自分で判断する。判断の方法はメーカーによって異なり、ジェラートの硬さを機械的に測るもの、撹拌モーターの消費電力から推し量るもの、庫内温度を見るもの、あるいは冷凍系と撹拌系のデータを組み合わせるものがある。いずれも狙いは同じ——最良の状態を逃さず取り出すことである。古典型の縦型は、これを持たない。 見張りが要るという一点は、その型を選ぶときの代償として数えておきたい。
生産能力の幅は広く、小型から大型まで、一般に1時間あたり10〜120kg程度まで揃う。工房の生産量に合った容量を選ぶことが、品質と効率の両立につながる。
提供の器 — 見せることと、守ること
工程の最後に来る器が、ショーケースである。大きなガラス面と照明のもとで、ジェラートは最大の訴求力を持つ。だがこの器は、質のために選ばれたものではなかった。
かつて店の売り場にあったのはポッツェッティ——蓋のついた円筒を冷媒に沈める方式である。そこからガラスのショーケースへの移行は、業界にとって画期的な転換だった。理由は一つ、見えることである。「陳列された商品は既に半分売れている」という古い言い回しが、この転換を言い当てている。
質の側から見れば、話は逆を向く。文献は、販売ショーケースが慣行として較正される温度を−14〜−17℃とし、そのうえでこれは製品の構造を良好に保つには最適な温度ではないと書く。見せるための器は、守るための器としては最善ではない——それが出発点にある事実である。
さらに、庫内は一つの温度ではない。職人はみな、自分のケースのどこが強く冷え、どこが弱いかを知っていて、それに応じて品を置き分けている。近年は二つの冷却帯を持つケースも現れ、この点で確かな前進がある。
もう一つ、日本で作るなら踏まえておきたい差がある。本書が提供温度として置く−13〜−14℃は、水のおよそ8割が凍る点として構造の側から導いた値である(第7章)。イタリアの慣行がそれより冷たい側にあることは、いま見たとおりである。いっぽう日本のジェラートは、イタリアほど甘さを求めない——ソルベに限らず、ミルク系も含めて糖を控える傾向がある。糖が少なければ氷点降下も小さく、同じ温度でより多くの水が凍る。つまり同じすくいやすさを得るには、温かい側へ寄せることになる。本書は日本の実務の目安として−11〜−14℃を置く。ただしこれは自店の配合で確かめて自分の値を持つべきものであって、動かせない線ではない(第5章)。
そして現代の器は、両方を取りにいく方向へ動いている。保存はポッツェッティの方式で、視認はショーケースで——密閉できる蓋、静止冷却、複数の運転温度を一台で扱う設計が、その答えとして出てきている。ポッツェッティが捨てられたのではなく、その長所が呼び戻されつつある、と見るほうが正しい。
ポッツェッティからショーケースへの移行、慣行の較正温度、庫内のむらと二温度帯、現代のハイブリッドは専門文献で照合。
機械の選び方
機械選びに唯一の正解はないが、指針はいくつかある。
- 生産量に合わせる。 過大な機械は電力とスペースを浪費し、過小な機械は品質の安定を欠く。1日の必要量から逆算する
- 設置環境を見る。 凝縮器の空冷・水冷、電源容量、放熱と換気、動線を確認する
- 工程が揃うか。 殺菌から硬化・保存まで、工程の鎖に切れ目がないように機器を組む
- メーカーに中立に。 カタログの数値だけでなく、保守体制と部品供給の確実さを重く見る
ただし、「一工程に一台」だけが答えではない。工房の面積がすべての機械を並べることを許さないところから、工程をまとめた複合機という道が生まれている。殺菌と凍結を一台でこなすもの、加熱の機能を持ってシリンダーの中で殺菌まで済ませるものがある。さらに、凍らせた器がそのまま販売の器を兼ねて、移し替えも硬化も要らない構成もある。工程の鎖に切れ目を作らないというのは、機械を一台ずつ並べることだけを意味しない。鎖そのものを短くするという解き方もある。
小さな工房では、面積と台数の制約が設計の出発点になる。複合機を選ぶと工程ごとの自由度は下がるが、そのかわり動線が短くなり、置き場所と初期費用が軽くなる。どちらが向くかは、作る量と品目の幅で決まる。
本書は特定の製品を推奨しない。どの機械も、正しく選び正しく使えば役割を果たす。逆に、優れた機械も使い方と手入れが悪ければ台無しになる。
保守 — 冷凍機は一定運転が命
冷やすことは、いまや工業的に確立された技術である。冷凍機そのものの性能は信頼できる製品に任せてよい。しかし冷たさを保つことは、大部分が使い手にかかっている。
冷凍機を効率よく、経済的に働かせる鍵は、運転をできるだけ一定に保つことである。負荷が乱高下すれば効率は落ち、故障も招く。文献は、そのための手を具体的に並べている。
- 熱いミックスをいきなり冷やさない。 できるだけ冷水で予冷してから機械に渡す
- 保存温度を下げすぎない。 設定を1℃低くするごとに、冷凍能力はおよそ3%落ちる
- 蒸発器の霜を定期的に落とす。 着氷したままでは、熱が抜けない
- 凝縮器のほこりを、ブラシや吸引機でこまめに払う。 あわせて凝縮の環境を整える——水冷なら十分な量のできるだけ冷たい水を、空冷なら閉じた場所に置かず新鮮な空気を吸わせる。冷却水や冷却空気が1℃上がるごとに、圧縮機の消費電力は3〜4%増え、冷凍能力は約1%落ちる
- ファンや撹拌翼を効かせておく。 殺菌機や熟成タンクの付属品も、熱の交換の速さを左右する
- 扉の開閉を減らし、パッキンを定期的に替える。 開閉の頻度と時間を切り詰めるのは、文献の言葉を借りれば「仕事の規律の問題にすぎない」。パッキン交換の費用は、たいてい電気代より安くつく
- 庫内を明るくしすぎない。 照明も冷たさを食う
数字が二つ入っているのは、手入れの効き目が感覚の話ではないからである。設定温度でも、冷却環境でも、1℃が効く。 こうした地道な手入れが、第7章で見た「温度変動を避ける」保存の要件に直結する。
保存庫については、手入れの前に選ぶ段階で決まってしまう条件が二つある。一つは冷やし方で、風を送らない静的な冷却のほうが保存には向く。もう一つは霜取りの方式である。自動霜取りは手間がかからないが、霜を落とすあいだ庫内の温度は必ず上がる。その上昇が瞬間的であっても、ジェラートは崩れることがある。だから保存庫には手動で霜取りする型のほうが適切だとされる。第7章の「温度変動を避けよ」という要求に、機器の側から答えているのがこの二つである。
ただし、保存温度の話には裏がある。低く保つほど再結晶化は抑えられて品質には有利だが、下げるほど能力と電力の代償は大きくなる。「必要なだけ低く」であって、「いくらでも低く」ではない(第7章・第16章)。
職人の視点
ここまでの第II部で、配合を実際のジェラートに変える工程と機械がそろった。次の第III部では、この基礎の上に立って、ソルベの設計や特殊素材、フレーバー開発といった応用へと進む。
章末クイズ2問
-
殺菌機は熟成まで一台でこなせる。それでも本書が熟成タンクを別に持つ理由の核心に置くのはどれか。
-
保存庫の霜取りの方式は、自動と手動のどちらが適切とされるか。本書の理由とともに選べ。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。