Approfondimento — 文中入口
多糖類はなぜ水を抱えるのか
Idratazione e reologia dei polisaccaridi
配合の0.5%にも満たない安定剤が、なぜミックス全体の水を縛れるのか。その答えは、多糖類が「高分子」であることに尽きる。水和と、絡み合いのレオロジーで解く。
上級編第4章では、安定剤を「水を縛る」素材として扱った。だが不思議な話である。ローカストビーンガムもグアーガムも、配合に加えるのはせいぜい0.2〜0.4%。その微量が、なぜ数百倍の水の振る舞いを支配できるのか。答えは、安定剤が単なる分子ではなく高分子(ポリマー)だという一点にある。

水素結合による水和
多糖類は、単糖が数千〜数万つながった長い鎖である。その骨格にはヒドロキシ基(−OH)が無数に並ぶ。この−OHが水分子と水素結合をつくり、鎖のまわりに水を引き寄せて固定する。これが水和(idratazione)である。
ただし、直接水素結合できる水の量だけでは、微量の安定剤が示す劇的な増粘は説明できない。水和は入口にすぎない。本質は、鎖が溶液中でどんなかたちをとるかにある。
コイルが抱え込む水
一本の高分子鎖は、溶液中で棒のように伸びてはいない。無数の単結合まわりの回転により、鎖はゆるく折れ曲がったランダムコイルをとる。重要なのは、このコイルが自分の質量に不釣り合いなほど大きな空間を占めることである。コイルの内側には水が入り込み、鎖に絡め取られて動きを失う(占有水)。
つまり多糖類は、直接水和する水だけでなく、コイルの内部に閉じ込めた大量の水ごと、巨大な実効体積を占める。わずかな質量が広い体積を支配する——これが「微量で効く」の正体である。
この「かさばり方」は、一つの数で捉えられる。鎖そのものが占める体積に対して、溶媒を抱き込んだ実効体積が何倍あるか——体積比 RV である。
Calcolo — 計算
VE=溶液中での分子の実効体積、VA=鎖そのものが占める体積
球のように丸くまとまった分子——多くの球状タンパク質がそうだ——では、実効体積は鎖の体積とほとんど変わらず、RV はおよそ1にとどまる。ところが伸びた鎖では、この値は跳ね上がる。増粘剤に使われる多糖類の分子量はおよそ5千から200万に及ぶが、それに対応する RV は、1程度から十億の桁にまで広がる。同じ「多糖類」という括りの中で、かさばり方は桁が違うのである。
増粘の役をタンパク質ではなく多糖類が担うのも、この一点による。多糖類は分子量が大きく、鎖が伸びているぶん RV が高い——だから、ずっと低い濃度で使える。
ここで注意すべきは、効くのは分子量そのものではなく、鎖が溶液中で占める体積のほうだという点である。同じ分子量でも、鎖が直線的なら RV は大きく、枝分かれしていれば小さい。実際、きわめて大きな分子量を持ちながら、枝分かれして丸まった形ゆえに粘度が低く、ニュートン流体のようにふるまう多糖類も存在する。分子量は必要条件にすぎない。伸びた鎖であってはじめて、増粘剤になる。
そしてもう一つ、鎖を伸ばす力がある。電荷である。鎖の上に同符号の電荷が並べば、電荷どうしが反発して鎖は引き伸ばされる。伸びれば RV は上がる。硫酸基やカルボキシ基を帯びた多糖類が、官能基の数だけでは説明のつかない効き方をするのは、電荷が鎖の形そのものを変えてしまうからである。
「少量で効く」の臨界点
濃度を上げていくと、あるところで粘度が急に跳ね上がる。希薄な溶液では、コイルどうしは離れて独立に漂っている。だが濃度が重なり合い濃度 c* を超えると、鎖が掃く球どうしが触れ合いはじめる。
この臨界の濃度が、どこに来るか。先ほどの RV が、それを決める。
Calcolo — 計算
P=充填パラメータ(分子が最密に詰まる体積分率に対応)
c* は RV に反比例する。かさばる分子ほど、低い濃度で臨界に届く。増粘剤として現に使われる RV が数千、数万にもなるのなら、c* は極端に小さな値になる。0.2%という配合が数百倍の水を支配できる理由は、この反比例の一行に凝縮されている。
さらに濃度が上がると、絡み合い濃度に届く。鎖どうしは互いに侵入して絡み合い、もはや相手をすり抜けて動けなくなる。粘度が急峻に立ち上がるのはこのためである。
では、ジェラートの安定剤はどちら側にいるのか。ここに、工程を貫く仕掛けがある。ミックスと未凍結相とでは、いる場所が違うのだ。
液体のミックスの段階では、安定剤は二つの境のあいだにいる。重なり合い濃度は越えているが、絡み合い濃度にはまだ届かない。分子どうしは影響を及ぼし合いながらも、それぞれがなお大部分を溶媒に囲まれている——半希薄と呼ばれる領域である。だからミックスは、まだ流れる液体である。ところが凍らせれば、話が変わる。提供温度では水のおよそ8割が氷として抜かれている(上級編第7章)。残された未凍結相の中で、溶質は数倍に濃縮される。安定剤は何も足していないのに、濃度だけが跳ね上がる。こうして安定剤は絡み合い濃度の向こう側へ運ばれ、実際、できあがったジェラートの未凍結相では、安定剤は通常この絡み合いの領域にいる。
配合表に書いた0.3%は、ミックスの中での0.3%にすぎない。仕事をする場所での濃度は、別にある。安定剤の設計とは、この移動を見越して入口の数字を決める作業なのである。
「効かせすぎない」とは、何を越えないことか
上級編第4章は安定剤を「効かせすぎない」素材と呼んだ。では、越えてはならない一線とは何か。絡み合いではない——絡み合いは、すでに見たとおり仕事の場所である。危ないのは、その先にある。
ここで、二種類の「くっつき方」を区別しておかねばならない。絡み合いは、位相的なものである。鎖はただ互いの中に入り込んで身動きが取れなくなっているだけで、どこかで結ばれているわけではない。だから強い力で引けば、鎖は互いに引き抜かれてほどける——これが擬塑性の正体である。ミックスが機械の中で流れ、口の中でゆるむのは、この「ほどける」性質による。
ところが鎖どうしが化学的に結びつくと、事情が一変する。水素結合をはじめとする分子間の相互作用が働けば、絡み合いだけから予想されるより粘度は高くなる。そして相互作用が十分に強ければ、鎖は架橋された網へと固定される。ゲルである。架橋は動かないから、鎖は互いをすり抜けられない。力を加えても流れず、力を除けば元の形へ戻る——液体ではなく、弾性体になってしまう。
絡んだ糸は、引けばほどける。だが結ばれた糸は、引いてもほどけない。この違いである。
そして厄介なことに、ジェラートで使う安定剤の少なからぬものが、条件次第でゲルをつくる能力を持っている。ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、κ-カラギーナン——いずれも、その気になれば固めてしまえる素材なのだ。上級編第4章が「効かせすぎない」と戒めたのは、絡み合い濃度のことではなかった。ほどける絡み合いに留め、ほどけない架橋へ踏み込ませない——それが、あの一言の意味である。
なぜ加熱がいるのか——主鎖構造の違い
上級編第4章のTab. 4-1は、カルーバ(ローカストビーンガム)は加熱が必要で、グアーガムは冷水でも水和する、と記した。この差は、主鎖構造から機構的に説明できる。
両者はともにガラクトマンナン(マンノース主鎖にガラクトースの側鎖がつく)だが、側鎖の密度が違う。グアーはガラクトースの側鎖がほぼ一つおきに付いており、側鎖が邪魔をして主鎖どうしが会合できないため、水がたやすく浸透して冷水でも水和する。一方カルーバは側鎖が少なく、置換されていない「裸の」区間が残る。この滑らかな区間どうしが会合して水の浸透を妨げるため、その会合をほどくには加熱が要る。側鎖の付いた部分はブラシのように立ち、両者の差は、歯の抜けた櫛の目の粗さの違いに似ている。
つまりここでは、鎖が自己会合しているか否かが加熱の要否を決めている——これがTab. 4-1の「加熱要否」欄の裏側である。ただし、これが唯一の決定因ではない。親水基そのものの多寡が効く場合もあり、たとえば硫酸基を多く持つ多糖類は冷水に溶けるが、硫酸基の乏しいものは温水を、ほとんど持たないものはさらに高い温度を必要とする。水和のしやすさは、親水基の多さと、鎖どうしの会合の強さという二つの要因の兼ね合いで決まると理解するのが正確である。
擬塑性と、氷結晶の抑制
絡み合った多糖類溶液は、ニュートン流体ではない。静止時は高粘度だが、強いずり応力を受けると鎖の絡みがほどけて流れやすくなる。この擬塑性(ずり流動化)ゆえに、安定化したミックスは静置時に水をしっかり抱えながら、マンテカツィオーネのせん断下ではなめらかに流れる。製造機械がミックスを扱えるのはこの性質による(設備の観点は上級編第8章、粘度の一般論は深掘り10)。
だが「静止時は高粘度」は、機械のためだけの性質ではない。ミックスの中を脂肪球がゆっくり浮き上がろうとするとき、その球が周囲の液に与えるずり応力はごく小さい。つまり浮上しようとする粒子が出会うのは、擬塑性の曲線の高粘度の端である。だから浮上は強く抑えられる。ずり流動化は、動かさないときにこそ、いちばん強く効く。熟成のあいだ脂肪が浮き上がるのを抑えているのは、この非対称である。
ただし、多糖類がつねに浮上を抑えるとは限らない。ある濃度域では、かえって浮上を促してしまうことが知られている。資料はこれを枯渇凝集という別の機構に帰しており、本稿では立ち入らない。ここでも「入れるほどよい」ではない。
もう一つ、ずり流動化には時間の顔がある。一定のずり速度でせん断を与え続けると、見かけの粘度は時間とともに下がっていく——チキソトロピーと呼ばれる挙動である。分子的な原因は擬塑性と同じもの(鎖の配向、絡み合いのほどけ、弱い相互作用の破壊)に帰される。同じ機構が、ずり速度への応答と時間への応答という二つの顔で現れるわけである。マンテカツィオーネのように一定のせん断を長く与える工程では、この時間の側も効いている。
そして、せん断を取り去ったあとに構造が戻るかどうかが問われる。鎖が配向を崩し、ふたたび絡み合い、隣どうしで会合し直せれば、系はもとの粘度と物性へ戻る(可逆)。戻らなければ不可逆、部分的にしか戻らなければ部分可逆である。資料は、戻る速さそのものが実用上の要点になりうると述べている。安定剤を選ぶとは、粘度の高さを選ぶことではなく、ほどけ方と戻り方を選ぶことなのである。
そして擬塑性は、口の中でも働いている。ずり流動化しない液体は、口の中で「ぬるり」と感じられる。一方でなめらかさには、ある程度の粘度が要る。つまり口当たりを分けるのは粘度の高さそのものではなく、口の中のずり応力でほどけるかどうかである。安定剤が過ぎた製品がゴム状に感じられるのは、粘度が高いからというより、ほどけなくなっているからである。上級編第4章の「効かせすぎない」には、架橋の手前で止めるという物理の意味と、口の中でほどけるものに留めるという官能の意味の、二つがあったことになる。
そして氷結晶の抑制も、粘度の話として説明できる。未凍結相の粘度が高いほど、水分子が氷結晶の表面へ拡散して結晶が育つ速度は落ちる。オストワルド成長の速さが拡散係数に比例する以上(深掘り03)、粘度を上げることが粗大化を遅らせるのは、物理として筋が通っている。
だが、ここで正直に書いておかねばならないことがある。安定剤が実際にその経路で効いているのかは、まだ決着していない。
一部の安定剤が氷の再結晶化を遅らせること自体は、確かめられている。しかしその機構は完全には解明されておらず、いまも研究が続いている。粘度による拡散の抑制は有力な説明であり、本稿が見てきた物理とも整合する——だが、それが主役だと言い切れるだけの証拠は、まだない。結晶表面への直接の吸着を示唆する説もある。
「粘度を上げれば氷が粗くなりにくい」は、経験としても物理としても支持される。だが「なぜそうなるのか」を我々はまだ完全には知らない。教科書が断定できる範囲は、ここまでである。
相乗効果——なぜブレンドが定石か
上級編第4章は、安定剤を単独より複数のブレンドで使うのが定石だと述べた。これも高分子の相互作用で理解できる。たとえばキサンタンとローカストビーンガム、あるいはカラギーナンとローカストビーンガムを併せると、単独の和を超える粘弾性やゲル強度が現れる。一方の鎖の特定領域が他方の鎖と選択的に会合し、より強固な網目を形成するためである。少量でも安定した物性が得られるのは、この相乗効果を利用しているからである。
章末クイズ2問
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配合の0.2〜0.4%にすぎない安定剤が、数百倍の水の振る舞いを支配できる。本稿の説明はどれか。
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配合表には安定剤0.3%と書いた。できあがったジェラートの中で、安定剤はどんな濃度で働いているか。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。