Approfondimento — 文中入口
乳糖の砂状化 — 過飽和と結晶化
La sabbiosità del lattosio
無脂乳固形分を入れすぎると、なぜ舌に砂を感じるのか。犯人は乳糖の結晶である。氷の再結晶化(深掘り03)と対をなす、未凍結相で起こるもう一つの結晶化を追う。
上級編第3章は、無脂乳固形分の上限を「乳糖の溶解度が決める」と述べ、入れすぎると砂状(sabbiosità)の欠陥が出ると警告した。上級編第13章はそれを診断の対象に挙げた。ここでは、その砂の正体——乳糖がどのように過飽和に達し、どんな結晶になるのかを掘り下げる。深掘り03で見た氷の再結晶化と同じく、これも未凍結相で進む結晶化の物語である。

乳糖は、際立って溶けにくい
乳糖は、グルコースとガラクトースが結びついた二糖で、動物の乳にしか存在しない。そして糖類の中で、溶解度が際立って低いという特異な性質をもつ。
どれほど低いか。20℃の水100gにスクロースはおよそ200gも溶ける。対して乳糖のα型が最初に溶ける量は、わずか8gほどにすぎない。実に25分の1である。
ただし、話にはもう一段ある。溶けたα型は水の中でβ型へと移り変わっていく(変旋光)。β型はα型より溶けやすいので、α型が減った分だけ、さらにα型が溶ける余地が生まれる。こうして平衡に達したときの実効的な溶解度は、最初の8gよりは高くなる。それでもスクロースの十分の一前後にとどまり、上級編第3章が挙げた「15℃で乳糖1に対し水6」という実務の目安も、この平衡後の値にあたる。どちらの物差しで測っても、乳糖は糖類のなかで桁違いに溶けにくい——これが出発点である。
上級編第3章が「無脂乳固形分にはつねに乳糖が付いてくる」と述べたことを思い出せば、危うさが見える。骨格を強めようと無脂乳固形分を増やすほど、この溶けにくい糖が未凍結相に溜まっていくのである。
凍結濃縮が、過飽和を生む
問題を決定づけるのが、凍結である。深掘り01で見たように、水が氷として抜けると、残った未凍結相の溶質は濃縮される(凍結濃縮)。乳糖もこの濃縮を受ける。もともと溶解度の低い乳糖が、水を奪われてさらに濃くなれば、たやすく溶解度を超える——過飽和の状態になる。
過飽和とは、溶けていられる限界を超えて溶けている、無理をした状態である。熱力学的には不安定で、余分な乳糖はいずれ結晶として析出しようとする。無脂乳固形分が適量なら、濃縮されても飽和に届かず結晶は出ない。だが上限を超えて入れると、凍結濃縮された未凍結相が過飽和に達し、結晶化の引き金が引かれる。上級編第3章が無脂乳固形分に上限を置き、上級編第5章がそれを計算で求めるのは、この過飽和を避けるためである。
砂の正体は、α-乳糖一水和物
では、析出する結晶とは何か。溶液から出てくる乳糖の結晶形は93.5℃を境に二つに分かれ、それを下回る温度で結晶化すると、必ずα型の一水和物(α-lactose monohydrate)になる。冷凍庫の中はもちろんこの温度域だから、ジェラートで育つ乳糖結晶は、例外なくこのα-乳糖一水和物である。
この結晶が厄介なのは、とても硬いことである。溶けて口の中で消えるスクロースと違い、α-乳糖一水和物の結晶は硬く、角ばっていて、なかなか再溶解しない。しかも形が独特で、矢じりのような尖った形をしている——顕微鏡で覗けば一目でそれと分かるほどに。硬く尖った粒が舌の上に散らばれば、感じ取れないはずがない。これが「砂」の感触、砂状の欠陥の実体である。官能評価の世界でも、砂状とは端的に「乳糖結晶の知覚」を指す言葉として定義されている。
氷の粗大結晶がザラつきを生むのと似ているが(深掘り03)、こちらは糖の結晶であり、溶解度という別の物差しで支配されている点が異なる。そして氷と違って、口の中の体温では溶けてくれない。氷のザラつきは舐めていれば消えるが、乳糖の砂は最後まで残る。
ここで、冒頭で見た変旋光がふたたび効いてくる。溶けた乳糖はα型とβ型の平衡にあるが、結晶として抜けていくのは溶解度の低いα型だけである。α型が抜けると平衡が崩れ、それを埋めようとβ型からα型への移り変わりが進む。すると、また抜ける。溶解のときには溶ける量を増やす方向に働いた変旋光が、析出のときには結晶を育て続ける方向に働く——同じ仕組みが、行きと帰りで逆に作用するのである。
時間差で牙をむく
砂状の欠陥には、独特の時間差がある。過飽和になっても、結晶が舌で感じる大きさまで育つには時間がかかる。だから砂状は仕込んだその日ではなく、数日の保存を経て現れることが多い。上級編第3章のコラムが「効果は仕込みの日に、副作用は数日後に」と述べたのは、この結晶成長の遅れを指している。
そして、氷の再結晶化とまったく同じく、温度変動はこの成長を加速する。品温が動くたびに乳糖の溶解と再析出が繰り返され、結晶は大きく育つ。砂状もまた、ヒートショック(深掘り03)に弱い欠陥なのである。
過飽和を、そもそも起こさない
対策は、過飽和という引き金を引かせないことに尽きる。しかも、この欠陥には他にはない利点がある——起きる前に、紙の上で防げるのである。
第一の道は、配合から未凍結相の乳糖濃度を計算してしまうことである。使う乳原料の乳糖量は分かっている。凍結濃縮の倍率も、提供温度における氷結率から見積もれる(深掘り01)。ならば、未凍結相の乳糖がどこまで濃くなるかは、仕込む前に計算できる。高すぎると分かったなら、脱脂粉乳を減らす。脱脂粉乳はおよそ半分が乳糖だから、ここが最も効く手綱になる。上級編第5章が示す上限の式は、この計算を実務の手順に畳み込んだものにほかならない。
第二の道は、どうしても固形分を上げたいときの脱ラクトース製品の利用である。乳糖を酵素分解してグルコースとガラクトースに変えておけば、これらは乳糖よりはるかに溶けやすく、過飽和に達しないため砂状を回避できる(上級編第3章)。ただし、分解すれば分子の数は倍になる——氷点降下も甘味も変わることを、忘れてはならない(上級編第2章・深掘り01)。
補助的には、深掘り03・04と共通の手も効く。安定剤で未凍結相の粘度を上げれば、乳糖分子の拡散が遅れて結晶成長が鈍る。そして冷蔵チェーンを低く一定に保てば、成長そのものが抑えられる。氷と乳糖——未凍結相で起こる二つの結晶化は、配合(乳糖の量)と工程(温度の管理)という同じ二つの手綱で御されている。
章末クイズ2問
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氷の粗大結晶のザラつきと、乳糖の砂。口の中でのふるまいの違いはどれか。
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変旋光(α型とβ型の移り変わり)は、乳糖の砂状化にどう関わるか。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。