第I部 配合の理論
乳固形分の設計
Solidi del latte — grasso e S.L.N.G.
水と糖が氷菓の骨組みなら、乳固形分はその肉付けである。脂肪はコルポと口どけを、無脂乳固形分は骨格と気泡の保持をもたらす。ただし増やせば増やすほど良いわけではない——乳糖という上限が待っている。
乳固形分は二つに分かれる
乳に由来する固形分——乳固形分——は、まず脂肪と、それ以外すべてをまとめた無脂乳固形分(solidi del latte non grassi、略してSLNG。英語圏のMSNFと同じ)に大別される。無脂乳固形分の中身は、タンパク質・乳糖・ミネラルの三つである。

配合を設計するとき、この二つは別々の物差しで扱う。脂肪は主に口あたりと溶けを、無脂乳固形分は主に骨格と空気の保持を受け持つ。役割が違うのだから、量も別々に決める。
脂肪 — コルポと口どけを運ぶ
乳脂肪は、ジェラートにcorpo(体)と溶けへの抵抗を与え、風味成分を舌の上で運ぶ。乳脂肪の融点は他の多くの油脂より低く、体温付近でなめらかに溶けるため、口どけと消化の良さに直結する。
ミックスの中で脂肪は、第1章で見たとおり微細な脂肪球のエマルションとして存在する。脂肪球はリポタンパクの膜に包まれて互いに反発し、分散を保つ。球が小さいほど数が多く膜が厚く働き、エマルションは安定する——均質化が重要なのはこのためである。
熟成(maturazione)の低温下では、脂肪球の中で脂肪が部分的に結晶化する。すべてが固まるわけではなく、球の内部は多くが液状のまま残る。この「一部だけ固まった」状態がホイップ性を高め、続くマンテカツィオーネで気泡を安定に抱き込む土台になる。そして凍結撹拌の機械的なせん断が、こんどはエマルションを部分的に壊し(部分脱乳化)、露出した脂肪どうしが気泡の周りで網目を作る——これがジェラートの構造を内側から支える。乳化剤が働くのはまさにこの局面である(第4章)。
脂肪には上限がある。一般に配合の8%前後(一説では10〜12%)を超えると、均質化が不十分な場合に脂肪相が分離しやすくなる。第5章の表が外枠として「〜12%」を示すのは、この分離を均質化で抑えられることを前提にした線である。
そしてもう一つ、構造そのものに効く弊害がある。脂肪が多すぎると、抱き込んだ空気が抜ける。いま見たとおり、部分脱乳化した脂肪は気泡のまわりに網目をつくって泡を支える側にいた。ところが割合が高くなると、同じ脂肪がミックスの表面張力を変え、気泡の壁を破って、すでに取り込んだ空気を逃がす側に回るとみられている。オーバーランは伸びず、伸びたところで品質には結びつかない。さらに脂肪が過剰に、しかも不揃いに凝集すると、口の中で溶けきるまでに時間がかかる。支え手は、多すぎれば妨害者になる。
加えて脂肪は原料の中で最も高価であり、カロリーはタンパク質・炭水化物のおよそ2.25倍。冷涼感を求めて食べる氷菓で脂肪を過剰にすると、重さが満足感を先回りして「もう一口」を遠ざける。多ければ良いという素材ではない。
無脂乳固形分 — 骨格をつくる
無脂乳固形分の主役はタンパク質である。乳タンパクは水を強く抱え込んでミックスに粘性を与え、凍結時の空気の取り込み(オーバーラン)を助け、エマルションを安定させる。ジェラートの「骨格」はここから来る。
乳タンパクは大きく二種類に分かれる。ひとつはカゼインで、乳中ではカゼイン酸カルシウムとして存在し、pHが4.5付近まで下がると酸凝固する。強い酸性のミックス——酸味の強い果実などと組み合わせる場合——では、このカゼインが凝集して舌にザラつき(砂状感)を生むことがある。もうひとつはホエイタンパク(乳清タンパク:ラクトアルブミン、ラクトグロブリン)で、こちらは加熱によって変性する。殺菌温度の設計(第6章)と関わるのはこのためである。
Approfondimento — 深掘りカゼインとは何か — ミセル構造と酸凝固の仕組み↓ 降りていく
卵のタンパク質も同じ枠組みで働く。乳化・安定・結着・起泡という多面的な機能を持ち、クレマ系の配合で乳タンパクを補完する。
乳糖という上限
無脂乳固形分を増やせば骨格は強くなる——が、そこには避けがたい制約がある。無脂乳固形分には常に乳糖が付いてくるからだ。乳糖は乳中で唯一の糖であり、無脂乳固形分のおよそ半分を占める(脱脂粉乳では50%超)。
乳糖は溶解度が低い。15℃では、乳糖1に対して水6が必要になる。同じ条件でスクロースは水1に2溶けるから、乳糖の溶けやすさはスクロースのおよそ12分の1にすぎない。無脂乳固形分を入れすぎると、この溶けにくい乳糖が未凍結相で飽和を超え、保存中に粗い結晶へと育つ。舌に砂を感じる砂状(sabbiosità)の欠陥——第1章で挙げた構造欠陥のひとつ——は、多くがこの乳糖の過剰結晶に由来する。
したがって無脂乳固形分の上限は、骨格の要求ではなく、別のところから来る。しかも二つある。一つは、いま見た乳糖の溶解度である。もう一つは、脱脂粉乳そのものが抱えられる水の量にも限りがあることだ。二つのうち厳しいほうが、その配合の上限になる。
そして重要なのは、どちらも固定の数字ではないという点である。配合にどれだけ水が残るかで、上限は動く。だから毎回、計算して求める——その手順は第5章で扱う。実務では総重量のおおむね8〜12%の範囲に収まることが多いが、これは典型的な配合での結果であって、上限そのものではない。どうしても固形分を上げたい場合は、乳糖を酵素分解した脱ラクトース製品(乳糖の大半をデキストロースとガラクトースに変えたもの)を使えば、砂状化のリスクを避けつつ骨格を足せる。
そして、この二つはどちらも上限である。だが無脂乳固形分には、下限もある。
少なすぎれば、タンパク質は必要な量の水を抱えきれない。抱えられなかった水は自由なまま残り、凍って氷の結晶になる。すると口の中にザラつきが出る——過剰と同じ「砂状」だが、正体が違う。過剰でできるのは乳糖の結晶、不足でできるのは氷の結晶である。
つまり無脂乳固形分は、上下から挟まれている。 上は乳糖が溶けきれずに結晶化する線、下は水を抱えきれずに氷が育つ線。どちらの側に外れても、症状は「ザラつく」として現れる。だから砂状の欠陥に出会ったとき、まず確かめるべきは多いのか少ないのかである(第13章)。
Approfondimento — 深掘り砂状化はなぜ起こるのか — 過飽和と乳糖の結晶化↓ 降りていく
職人の視点
主要な乳原料の位置づけ
同じ「乳固形分を足す」でも、どの原料を選ぶかで脂肪と無脂乳固形分の配分は変わる。代表的な原料を、この二つの軸で整理しておく。
| 原料 | 主に足すもの | 設計上の位置づけ |
|---|---|---|
| 牛乳(全乳) | 水・無脂乳固形分・少量の脂肪 | ミックスのベース。水分が主 |
| 生クリーム | 脂肪 | 脂肪を上げる主手段 |
| 脱脂粉乳 | 無脂乳固形分(乳糖を多く含む) | 骨格の増強。入れすぎは砂状化 |
| 脱脂濃縮乳 | 無脂乳固形分(水分を抑えて) | 粉乳より風味が穏やか |
| バター | 脂肪(水を14〜16%含む) | 脂肪を足すが、水も一緒に入る。タンパク質と乳糖はほぼ残っていない |
| 無水乳脂肪(バターオイル) | 脂肪(ほぼ脂肪のみ) | 水分を増やさず脂肪だけ足す |
分類・役割は一般的な乳製品知識と専門文献で照合。組成の具体数値は原料・規格で変動するため本表には載せていない。
脂肪と無脂乳固形分を別々に足せる原料が揃っていることが重要である。たとえば「コシは欲しいが脂肪は上げたくない」なら脱脂粉乳や脱脂濃縮乳で無脂乳固形分だけを、「水を増やさず脂肪だけ足したい」なら無水乳脂肪を選ぶ。この配分を数値として組み立てる手順は、第5章「バランシング実践」でまとめて扱う。
ここから、一つの帰結が出る。バターだけで脂肪を足した配合は、無脂乳固形分が痩せる。バターは製造の過程で乳清とともにタンパク質と乳糖が抜かれているからだ——表のバターの行に「タンパク質と乳糖はほぼ残っていない」と書いたのは、この意味である。だから文献は、バターが唯一の脂肪源であるなら、失われた分を脱脂粉乳で補えと述べている。脂肪を足したつもりが、骨格を減らしていた——先に見た下限を、下から踏み抜く道がここにある。
章末クイズ2問
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脂肪を増やしたのに、オーバーランが伸びなくなった。本書が挙げている理由はどれか。
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生クリームを切らしたので、バターだけで脂肪を足した。本書が名指しで警告している副作用はどれか。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。