ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
13

第IV部 経営と品質

欠陥の診断と対策

I difetti del gelato

うまくいかないジェラートは、必ず理由を抱えている。硬すぎる、ザラつく、水っぽい——こうした症状は、配合か工程のどこかで起きたことの結果である。本章は、症状から原因を逆算する診断の技術をまとめる。ここまでの全章が、ここで一つの道具箱になる。

欠陥は原因を指し示す

ジェラートの品質を評価するのは、思いのほか難しい。明確な合否ラインが引きにくく、判断には主観も混じる。それでも、はっきりした欠陥difetto)——ザラつき、硬さ、水っぽさ——は、確かな手がかりである。欠陥は症状であり、症状は必ず原因を指し示すからだ。

診断とは、症状から原因へと逆算する作業である。そのためには、ここまでの全章の知識が要る。原料が何を持ち込むか(第III部)、成分がどう働くか(第I部)、工程で何が起きるか(第II部)——これらを知っていて初めて、「なぜこの症状が出たか」を読み解ける。本章は、その知識を診断のかたちに組み直したものである。

診断の順序 — 温度、配合、工程

原因を闇雲に探すと迷う。切り分けには順序がある。

症状に気づく ① 温度を疑う保存・提供(第7章) ② 配合を疑うコルポ(第2〜5章) ③ 工程を疑うストゥルットゥーラ(第6〜8章) 手前ほど直しやすく効果が速い ── 「今日は硬い」は、配合を疑う前にまず温度計を。
Fig. 13-1 症状に気づいたら、まず保存・提供温度を疑い、次に配合(コルポ)、最後に工程(ストゥルットゥーラ)へと切り分ける。手前ほど、直しやすく効果が速い。

まず温度を疑う。同じ配合でも、ショーケースの品温が数度ずれるだけで硬さは大きく変わる(第7章)。次に配合——コルポ、すなわち固形分の量と構成(第2〜5章)。最後に工程——ストゥルットゥーラ、すなわち殺菌・凍結・硬化の管理(第6〜8章)である。第1章で導入したコルポとストゥルットゥーラの区別は、ここで診断の二本柱として働く。手前の原因ほど直しやすく、効果も速い。

症状から原因への早見表

代表的な欠陥を、症状・主な原因・対策で整理する。原因はいずれも、ここまでの章で扱った因果に対応している。

Tab. 13-1 ジェラートの欠陥診断(症状 → 主な原因 → 対策)
症状主な原因対策と参照
硬い・重い配合:総固形分の不足/糖の不足(PAC不足)
工程:保存温度が低すぎる/熟成の不足/空気の取り込み不足/安定剤の使い方の誤り
まず品温を確かめる。そのうえでクレマ系なら総固形分32%・糖16%を下回っていないかを見て、スクロースの一部を高PACの糖へ置き換える(第2・5・7章)
柔らかい・水っぽいPAC過多/固形分・脂肪の不足糖の内訳と固形分・脂肪を見直す(第2・3・5章)
砂状(ザラつく)二種類ある。
乳糖の結晶:無脂乳固形分の過多/粉乳の入れすぎ(粉乳は半分が乳糖)/乳清粉末の混じった粉乳/スクロースだけを過剰に使った配合/すでに結晶化しはじめた加糖練乳
氷の結晶:無脂乳固形分の不足——水を抱えきれずに凍る
工程:保存温度の変動
無脂乳固形分は12%を目安に、配合ごとの上限を計算で確かめる。粉乳が乳清粉末と混ざっていないか確かめる。スクロースの一部を他の糖へ。古い練乳は加温して結晶を溶かしてから使う。逆に不足しているなら増やす(第3・5・7章)
粗い(氷の粒を感じる)凍結が遅い/硬化の不足/温度変動/掻き取り刃の削りが効いていない急速に凍結・硬化し、再結晶化を防ぐ。あわせて刃がよく研がれ、変形せずシリンダーの壁に密着しているかを確かめる(第1・7・8章)
バター状配合:脂肪の過多/無脂乳固形分の不足
工程:均質化・熟成の不足
脂肪と乳固形分の両方のバランスを見直し、均質化と熟成を確かめる(第3・6章)
ゴム状安定剤の過多/安定剤の種類が合っていない量を減らす。それで直らなければ製品そのものを変える(第4章)
スポンジ状バランス不良/卵黄・安定剤の過多/空気の入れすぎバランスと安定剤・オーバーランを見直す(第4・5章)
表面に白い斑点(ソルベ系)配合:糖の過飽和(果実系は乳系より糖が高い)/スクロースの過多
工程:保存温度が十分に低くない/保存温度の変動
まず庫内の温度と、その安定を確かめる。そのうえで表面を乾かさないようにし、スクロースの一部をグルコースシロップなど他の糖へ置き換える(第2・7・9章)

症状・原因・対策の対応は、本書第1〜9章で確立した因果に基づく(オリジナル整理)。

この表を使うときに、一つ心得ておきたいことがある。同じ症状に、配合の原因と工程の原因の両方がある。

文献の欠陥表は、この二つを別の節に分けて立てている。前半は配合——材料の組成に結びついた原因。後半は工程——均質化、熟成、マンテカツィオーネ、硬化、保存の運びの不備である。そして後半の節はこう断っている。工程由来の欠陥は、配合の不備によって増幅されうる、と。逆もまた言える。配合由来の欠陥は、工程が整っていれば軽く済むことがある。

つまり症状から原因へ遡る道は、いつも二本ある。第1章で立てたcorpo(配合)とstruttura(工程)の区別が、診断の場面でそのまま道具になる。上の表で「硬い・重い」の行だけを配合と工程に分けて書いたのは、この二本立てをいちばん見せやすい症状だからである。

なお、この二分では保存や提供の温度は工程の側に数えられる。本章の冒頭が温度だけを先頭へ切り出したのは、工程のなかでもっとも軽く確かめられる一枚だからである。

そして実務では、先に見るべきは工程の側である。理由は単純で、こちらのほうが直せるまでが早い。配合を疑えば試作をやり直すことになるが、庫内の温度計を見るのは今日のうちに終わる。

いくつかの欠陥を読み解く

表の背後にある理屈を、代表例で確かめておく。

砂状は、多くが乳糖の過剰結晶に由来する。無脂乳固形分を増やすほど乳糖も増え、溶けきれずに粗い結晶へ育つ(第3章)。しかも保存温度が上下すれば結晶の成長は加速する。つまり砂状は「配合(乳糖の量)」と「工程・保存(温度の安定)」の両面から生まれる——診断でも両方を見る必要がある。

Approfondimento — 深掘り砂状の結晶はどう育つのか — 乳糖の過飽和と結晶化↓ 降りていく

バター状は、脂肪が多すぎるとき以上に、脂肪をうまく扱えなかったときに起きる。均質化が不十分で脂肪球が大きいまま、あるいは熟成不足で脂肪が液状のまま凍ると、脂肪が制御を失って塊になる(第3・6章)。「脂肪を減らす」より先に「均質化と熟成を見直す」べき場合が多い。

粗い組織は、氷結晶が大きく育った結果である。凍結が遅い、硬化が遅い、あるいは保存中の温度変動——いずれも臨界温度帯をゆっくり通したことが原因になる(第1・7章)。配合が正しくても、工程が雑なら必ず出る欠陥である。

表面の白い斑点は、診断を誤りやすい。糖が多すぎるせいだと考えて総糖を削りにかかると、多くの場合、的を外す。引き金は配合ではなく、表面から水が逃げたことにあるからだ。露出した面から水分が蒸発すれば、そこだけ糖が濃縮され、やがてスクロースが結晶として析出する。もっとも、スクロースは結晶化がきわめて遅いため、この欠陥そのものはまれである。裏を返せば——出たときは、表面がそれだけ長く乾いていたということにほかならない。まず疑うべきは、覆いと保存であって、レシピではない。

Approfondimento — 深掘り保存中に氷が育つ仕組み — オストワルド成長とヒートショック↓ 降りていく

舌に出る欠陥 — 組織ではなく、味と香り

ここまでの表が扱ってきたのは、すべて組織の欠陥である。硬い、ザラつく、ゴム状——手と口が触れて分かる、構造の不備。だが欠陥はもう一つの層で出る。味と香りである。

こちらには、組織とは違う特徴がある。組織の欠陥は、配合か工程か——作り手が何をしたかに原因がある。ところが味と香りの欠陥は、材料が工房に入る前から始まっていることが多い。酸敗した油、古い粉乳、傷みかけた生クリーム。作る技術がどれだけ正しくても、入ってきたものが悪ければ、そのまま製品に出る。

文献は味・香りの欠陥を十以上に分けて挙げている。ここではそのうち、本書がここまでに扱った因果で原因を説明できるものを五つ取る。残りは器具の材質や香料の量など、本書がまだ機構を持たない領域にあるので、名前を挙げるに留める(金属味、塩味、味が弱い、味が強すぎる、獣脂のような味)。

Tab. 13-2 味と香りの欠陥(症状 → 主な原因 → 対策)
症状主な原因対策と参照
酸っぱい殺菌機の外で——室温に置いて——ミックスを冷ました/熟成が長すぎた/原料がすでに傷んでいた冷却は殺菌機の中で完結させる。熟成は一晩を既定とし、翌々日へ持ち越さない(第6章)
煮えた味加熱のしすぎ。とくに卵黄を含む配合で、高温側に振りすぎたとき高温殺菌でも85℃を目安とし、そこを超えない。卵黄入りは83〜85℃でタンパク質が凝集しはじめる(第6・10章)
粉乳の味脱脂粉乳の入れすぎ/粉乳そのものの劣化無脂乳固形分の上限を計算で確かめる。同じ原因が砂状(乳糖の結晶)も生むので、上の表と併せて見る(第3・5章)
糊のような味安定剤の入れすぎ量を減らす。ゴム状と同じ原因が、口の中に別の形で出たものである(第4章)
酸敗(古い油の味)脂肪の酸化。原料の保管が長い/ナッツペーストの油が分離したまま古い/熟成の超過/保存が長い脂肪の多い原料ほど回転を上げる。ナッツペーストは分離したら混ぜ直して使い切る。冷凍の保存にも期限を置く(第6・10章)

症状・原因・対策の対応は、本書第1〜10章で確立した因果に基づく(オリジナル整理)。文献が挙げる十二種のうち、本書が機構を説明できる五つを選んで再構成した——網羅ではない。

五つを並べると、見えてくることがある。粉乳の味と砂状は同じ原因(粉乳の入れすぎ)であり、糊のような味とゴム状も同じ原因(安定剤の入れすぎ)である。つまり入れすぎは、組織と味の両方に、同時に別の顔で出る。片方だけを直そうとすれば的を外す。舌が「糊っぽい」と言ったなら、それは組織についての診断でもある。

職人の視点

欠陥は、叱ってくる先生のようなものだ。「ここの理解が足りない」と、製品そのものが教えてくれる。ザラついたら乳糖と温度を、バター状なら均質化を復習しろ、と。だから欠陥を隠したり捨てたりする前に、一口食べて原因を言い当てる癖をつけたい。診断できる職人は、同じ失敗を二度しない。

最良の対策は、記録である

診断を速く正確にする最大の武器は、記録である。配合・殺菌温度・熟成時間・保存温度を日々残していれば(第12章)、欠陥が出たとき「いつもと何が違ったか」をすぐ突き止められる。記録のない工房では、同じ欠陥の原因探しを毎回ふりだしから始めることになる。

欠陥の診断は、第I部から第III部までの知識を、現場のトラブルに架橋する技術である。ここまでで、ジェラートを設計し・作り・守り・直す一通りがそろった。第IV部の残り二章では、それを商品として世に出すための法規と表示、そして原価と価格を扱う。

章末クイズ2問
  1. ソルベの表面に白い斑点が出た。本書に従えば、まず疑うべきはどれか。

  2. 客が「糊っぽい味がする」と言った。本書の診断表に従えば、この訴えをどう読むか。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。