Approfondimento — 文中入口
再結晶化とヒートショック
Ricristallizzazione — la maturazione di Ostwald
せっかく細かく作った氷結晶が、保存中になぜ育つのか。総氷量は変わらないのに組織が粗くなる——その正体はオストワルド成長であり、温度変動がそれを加速する。
深掘り02では、マンテカツィオーネで無数の微小な氷結晶が生まれるまでを見た。だが物語はそこで終わらない。冷凍庫に収めたあとも、氷結晶は静かに育ち続ける。しかも、溶けて水が失われるわけではない。総氷量はほぼ変わらないのに、結晶は数を減らし、平均の大きさを増していく。この保存中の粗大化を再結晶化(ricristallizzazione)と呼ぶ。上級編第7章で温度変動を最も警戒すべきと述べた理由が、ここにある。
小さい結晶は、損をしている
再結晶化の原動力は、熱力学にある。鍵は、小さい結晶ほど溶けやすいという事実である。
結晶は表面をもち、表面の分子は内部の分子より不安定である(表面自由エネルギー)。結晶が小さいほど、体積に対する表面の割合が大きく、曲率もきつい。その結果、小さい結晶は周囲の未凍結相に対する実効的な溶解度が高くなる(ギブズ-トムソン効果)。この関係は、半径 r の粒子について次のように書ける。
Calcolo — 計算
S(r)=半径 r の粒子に対する溶解度、S(∞)=平らな界面に対する溶解度、γ=界面張力、Vm=モル体積、α = 2γVm / RT
指数の中に r が分母として入っている——ここがすべてである。r が小さいほど指数は大きくなり、溶解度は跳ね上がる。逆に r が大きければ指数はゼロへ近づき、溶解度は平らな界面の値に落ち着く。同じ温度でも、小さい結晶の周りの水は「まだ溶けられる」状態、大きい結晶の周りの水は「もう飽和」の状態になるのは、このためである。
オストワルド成長 — 大が小を食う
この溶解度の差が、水分子の移動を生む。小さい結晶の表面からは分子が溶け出し、未凍結相を通って大きい結晶の表面へ拡散し、そこで凍りつく。結果として、小さい結晶は縮んで消え、大きい結晶はさらに大きくなる。系全体の表面エネルギーを下げようとするこの自発的な過程を、オストワルド成長(maturazione di Ostwald)という。
総氷量は保たれたまま、結晶の数だけが減り、平均径が増える。作りたては数十µm以下にそろっていた結晶が、保存とともに口にザラつく大きさへと育っていく。これが、配合を変えていないのに時間とともに組織が粗くなる正体である。
この粗大化には、速さの法則がある。定常状態に達すれば、結晶径の三乗が、時間に比例して増える。
Calcolo — 計算
r0=はじめの半径、α = 先のギブズ-トムソン式で定義した量、D=未凍結相を通る分子の拡散係数
この一行に、三つのことが書いてある。
一つは、粗大化は時間とともに減速するということだ。径は時間の三乗根でしか伸びない——倍の大きさになるには、八倍の時間が要る。裏を返せば、いちばん危険なのは最初の時期である。作りたてが最良だという経験則(入門編第6章)には、この非線形の裏づけがある。
二つめは、速さを決めるのが三つの量の積だということである。α は界面張力を含む量で、先ほどのギブズ-トムソン式の指数に現れたものと同じ——氷と未凍結相のあいだの界面張力は、配合表の数字で動かせるものではない。S(∞) は平らな界面に対する溶解度、つまり駆動力の大きさそのものである。残る一つが D——未凍結相を通る分子の拡散係数である。手が届くのは、この D だけである。
三つめは、温度がこの式に二度、逆向きに現れることである。α の分母には T があるから、低温ほど α は大きくなる——式の上では、低温化は粗大化を速める方向にも働いている。それでも実測は「温度が低いほど再結晶化は遅い」で一致している。ガラス転移温度(深掘り01)に近づくにつれて D が桁で落ち、α のわずかな増加を圧倒するからである。低温が効くのは、駆動力が消えるからではなく、分子が動けなくなるからである。
なお粗大化の道筋はもう一つある。合体(accretion)——隣り合った二つの結晶が触れると、その接点に首(ネック)ができ、やがて埋まって一つの結晶になる。オストワルド成長が「離れた結晶のあいだを分子が渡る」機構であるのに対し、合体は「接した結晶どうしが融合する」機構である。保存中の粗大化は、この二つが並行して進む。
ヒートショック — 温度変動が加速する
オストワルド成長はゆっくりだが、温度の変動はこれを劇的に速める。この温度変動による組織破壊を、現場ではヒートショック(shock termico)と呼ぶ。
仕組みはこうである。品温が上がると、氷の一部が溶ける。このとき、溶解度の高い小さい結晶が真っ先に溶けて消える。次に品温が下がると、溶けた水はふたたび凍る。だが、ここが要点である——再び凍るとき、水は新しい核をつくらず、生き残っている大きな結晶の表面に凍りつく。新しい結晶が生まれるには過冷却による核生成が要るのに対し、既存の結晶表面での成長にはそれが要らないからである(深掘り02)。
こうして一回の温度サイクルごとに、小さい結晶が消え、大きい結晶が肥える。サイクルを重ねるほど組織は加速度的に粗くなる。上級編第7章が「−22℃で硬化させたものを−16℃に戻し、また−22℃へ」という往復を強く戒めたのは、その一往復ごとに、この破壊が確実に進むからである。
だから、低く一定に
対策は、二つの機構の両方を封じることに尽きる。
一つは、低温を保つこと。温度が低いほど未凍結相の粘度は高く、水分子の拡散は遅くなる——先ほどの式でいえば、D を下げる手である。拡散が律速であるオストワルド成長は、低温で確実に遅くなる(未凍結相の粘性は深掘り01・04)。凍結濃縮が行き着くガラス転移温度(深掘り01)を下回れば、拡散は事実上止まり、再結晶化もほぼ停止する。もう一つは、温度を一定に保つこと。変動をなくせばヒートショックの加速そのものが消える。
配合の側からも支えられる。安定剤で未凍結相の粘度を上げれば拡散が遅れる——これもまた D を下げる手だと考えられている(深掘り04)。ただし、安定剤が再結晶化を遅らせること自体は確かめられている一方で、その機構が粘度によるものかどうかは、まだ決着していない。総固形分を高く保てば凍らない水が増えて結晶の連絡が疎になる。だが最後にものを言うのは、硬化から販売までの冷蔵チェーンを、低く、そして一定に保つ運用である。作りたての細かさ(深掘り02)を守れるかどうかは、この一点にかかっている。組織が粗い、シャリシャリするという欠陥(上級編第13章)の多くは、配合ではなく、この温度管理の失敗に由来する。
章末クイズ2問
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保存中、総氷量はほぼ変わらないのに、組織は粗くなっていく。本稿が示す機構はどれか。
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品温が上がって氷の一部が溶け、また下がって凍り直した。氷の量は元に戻ったのに、組織は前より粗い。なぜか。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。