ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
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第IV部 経営と品質

日本の法規と表示

Normativa ed etichettatura in Giappone

どれほどおいしく作っても、日本で売るには法律の枠に収めなければならない。「ジェラート」という言葉は、じつは日本の法律上の区分ではない。本章は、製品を商品として世に出すための表示と衛生の法規を、要点にしぼって整理する。

「ジェラート」は法律用語ではない

日本の法令に「ジェラート」という区分はない。店頭でジェラートと呼んでいても、法律上は乳固形分乳脂肪分の量によって、いくつかの区分のどれかに分類される。どう名乗るかは好みではなく、成分が決める——ここが出発点である。

乳を使うクレマ系は「アイスクリーム類」のいずれか、乳をほとんど使わないソルベ系は「氷菓」になることが多い。なお、ここから先の「氷菓」は、冷たい菓子の総称としての日常語ではなく、法令上の区分名である。第3章で設計した乳固形分が、そのまま法的区分を左右する。

アイスクリーム類の区分

乳を主要原料とし乳固形分3.0%以上のものはアイスクリーム類とされ、成分により三つに分かれる。それに満たないものは氷菓である。

Tab. 14-1 アイスクリーム類・氷菓の区分(乳及び乳製品の成分規格等に関する命令ほか)
区分乳固形分うち乳脂肪分
アイスクリーム15.0%以上8.0%以上
アイスミルク10.0%以上3.0%以上
ラクトアイス3.0%以上規定なし
氷菓上記に該当しないもの

乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)による。2026年7月時点。

アイスクリーム類は、「名称」ではなく種類別として、「アイスクリーム」等の区分を大きめの文字で表示する決まりである。氷菓の場合は「名称」に氷菓と記す。同じ見た目のジェラートでも、乳固形分15.0%以上・うち乳脂肪分8.0%以上なら「種類別 アイスクリーム」、乳をほとんど含まないフルーツのソルベなら「名称 氷菓」——第2章から第9章までの配合設計が、最後に表示の言葉を決めるのである。

一括表示に載せること

包装して販売する加工食品には、定められた項目を一括表示として表示する義務がある。ジェラートを容器詰めで売るなら、次のような項目が必要になる。

種類別アイスクリーム 原材料名牛乳、クリーム、砂糖、…〔例〕 添加物安定剤(増粘多糖類)…〔例〕 内容量〇〇 mL 保存上の注意ご家庭では−18℃以下で保存して下さい 製造者〇〇(住所)/製造所の所在地
Fig. 14-1 包装したジェラート(アイスクリーム類)の一括表示の例。値は説明用のプレースホルダ。「保存上の注意」の行だけは法令ではなく公正競争規約に由来する——理由は本文。

このほか、包装の状態や販売形態に応じて、消費期限または賞味期限栄養成分表示(熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量)、原料原産地名などが求められる。表示は別記様式(一括表示枠)にまとめるのが基本だが、同等にわかりやすければ他の方法も認められている。店頭で対面で量り売りする場合と、包装して売る場合とで求められる表示は異なるため、販売形態に応じて確認する必要がある。

「−18℃以下」は、法律ではない

図14-1に、ひとつだけ性格の違う行がある。保存上の注意である。ここを取り違えている現場は多い。

まず事実から。アイスクリーム類に、法定の保存温度基準は存在しない。「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令」——長らく乳等省令と呼ばれてきた、あの法令である——のアイスクリームの項にあるのは「成分規格」と「製造の方法の基準」だけで、「保存の方法の基準」という項目そのものがない。同じ命令の中で、クリームには「殺菌後直ちに摂氏十度以下に冷却して保存すること」、濃縮乳にも同様の基準が置かれている。置くべき品目には現に置いてあり、アイスクリーム類にだけ無い——書き忘れではなく、そういう作りなのである。

では、あの「−18℃以下」はどこから来たのか。業界の公正競争規約である。景品表示法にもとづいて認定された、アイスクリーム類及び氷菓の表示に関する規約——その施行規則が、こう定めている。

公正競争規約 施行規則

〔賞味期限と保存方法の表示を省略する場合は〕表示すべき保存上の注意について、
8ポイント以上の大きさの活字で「ご家庭では−18℃以下で保存して下さい。」等の主旨の表示をする

三つ、読み取ってほしい。一つ、これは法令ではない——景品表示法に基盤を持つ認定制度ではあるが、省令でも告示でもない。二つ、「保存方法」欄の中身ではない——賞味期限と保存方法の表示を省略したときに、代わりに書く注意書きである。三つ、「ご家庭では」と書いてある。事業者の保存基準ではなく、買って帰る人への注意なのである。

そして、省略できるという話には根拠がある。食品表示基準は、アイスクリーム類について「保存の方法」と「消費期限又は賞味期限」の両方を省略できると定めている。品質の変化が小さいためで、でん粉・チューインガム・砂糖・食塩・氷などと同じ扱いである。ただし種類別の表示は省略できない

ここまで分かると、第7章との関係もほどける。ショーケースを−13〜−14℃で運用することは、法定の保存基準に反しない。反すべき法定基準が、そもそも存在しないからである。−18℃は家庭の冷凍庫に向けた数字であって、店のショーケースに向けた数字ではない。

アレルギー表示

見落とせないのがアレルギー表示である。ジェラートは乳・卵・ナッツ・果実を日常的に使うため、多くの原料が対象になる。

Tab. 14-2 アレルギー表示の対象(食品表示基準)
区分品目
特定原材料(表示義務・9品目)えび・カシューナッツ・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生
特定原材料に準ずるもの(表示を推奨・20品目)アーモンド・ピスタチオ・マカダミアナッツ・キウイフルーツ・オレンジ・もも・りんご・バナナ・大豆・ごま・ゼラチン ほか

食品表示基準による。2026年7月時点。準ずるものは代表例を抜粋。

表示義務が及ぶのは、容器包装した加工食品である。ショーケースからすくってカップに渡す一杯や、店内で食べてもらう分は対象ではない。だが同じジェラートでも、蓋をして持ち帰り用に売れば対象になる。同じ商品が、包装するかどうかで扱いを変える。

とりわけ乳と卵はクレマ系のほぼすべてに関わり、義務対象である。ナッツ系(くるみとカシューナッツは義務、アーモンド・ピスタチオ・マカダミアは推奨)や果実(キウイ・オレンジ・もも・りんご・バナナは推奨)も、フレーバー次第で頻繁に登場する。原料が変われば対象も変わるため、第10章・第12章で述べた原料の記録が、正確なアレルギー表示の土台になる。

殻付きくるみ(Juglans regia)のスポット挿絵。特定原材料の一つ。

職人の視点

表示は、義務であると同時に、お客との約束でもある。乳アレルギーの子どもの親にとって、「乳」の二文字は命に関わる情報だ。法令を「面倒な規則」と見るか、「食べる人への誠実さ」と見るかで、ラベルの一枚は意味が変わる。正しい表示は、良いジェラートの一部である。

営業許可とHACCP

ジェラートを製造して販売するには、食品衛生法にもとづくアイスクリーム類製造業の営業許可が必要である。施設の基準を満たし、保健所の許可を受けたうえで営業する。

そして第12章で扱ったHACCPは、2021年6月から、原則としてすべての食品事業者に義務づけられている。ジェラテリアのような小規模な事業者は、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」——業種別の手引書に沿った簡略な方法——で対応できる。アイスクリーム類の小規模製造者向けの手引書も用意されている。第12章で述べた予防的な衛生管理は、いまや任意の心がけではなく、法的な義務なのである。

法令は変わる、必ず最新を

本章の数値と項目は、執筆時点(2026年7月)の一次情報で確認したものである。しかし食品表示や衛生の法令は改正が続く——アレルギー品目の追加、表示ルールの変更などは実際に起きている。製品を出す前には、必ずそのときの最新の情報を、公的機関の一次情報で確認すること。 これは注意ではなく、事業者の義務である。

以上で、ジェラートを設計し・作り・守り・診断し・法に沿って世に出すまでがそろった。次の第15章では、それを事業として成り立たせる——原価計算と価格設計を扱う。

出典:乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(昭和26年厚生省令第52号。慣用の「乳等省令」の現行題名/e-Gov法令検索)、食品表示基準(消費者庁)、食物アレルギー表示(消費者庁)、HACCPに沿った衛生管理の制度化(厚生労働省)。いずれも2026年7月時点で参照。

章末クイズ3問
  1. 日本の法令における「ジェラート」の扱いはどれか。

  2. アイスクリームの容器で見かける「ご家庭では−18℃以下で保存して下さい。」——この表示の正体はどれか。

  3. 同じジェラートを、店内でカップに掬って渡す場合と、蓋をして持ち帰り用に売る場合。アレルギー表示の義務はどうなるか。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。