ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
15

第IV部 経営と品質

原価計算と価格設計

Costi e prezzo

おいしいジェラートを作れることと、店を続けられることは、別の技術である。第IV部の締めくくりとして、味を事業として成り立たせる——原価を把握し、価格を設計する考え方を扱う。数字は、良い仕事を明日も続けるための道具である。

続けられて、初めて価値になる

ここまでの章で、ジェラートを設計し(第I部)、作り(第II部)、守り、診断し、法に沿って世に出す(第IV部前半)技術を見てきた。だが、どれほど良いものを作っても、採算が合わなければ店は続かない。続かない店のジェラートは、もう誰も食べられない。おいしさは、事業として続けられて初めて、社会的な価値になる。

原価計算と価格設計は、そのための技術である。難しい数式は要らない。必要なのは、「一杯のジェラートに、いくらかかっているか」を正しく把握し、「いくらで売れば続けられるか」を筋道立てて考えることである。

原価は二つの層でできている

コストは大きく二種類に分かれる。作る量に応じて増減する変動費と、作っても作らなくてもかかる固定費である。

Tab. 15-1 ジェラート事業のコストの分類
種類性質主な例
変動費作る量に比例して増減する原材料費、包装資材、(一部の)光熱費
固定費量にかかわらず一定でかかる家賃、人件費、機械の減価償却、基本料金

一般的な原価計算の分類による。具体的な金額・比率は事業ごとに異なる。

この区別が重要なのは、二つが正反対の振る舞いをするからである。変動費は一杯あたりで考えれば一定に近いが、固定費は「たくさん作って売る」ほど一杯あたりの負担が軽くなる。つまり、原価は生産量と密接に結びついている。

原材料費を積み上げる

変動費の中心は原材料費である。そして、その計算はすでに本書のなかにある——第5章のバランシングだ。配合が成分と分量で書けていれば、各原料の単価を掛けて足すだけで、一回のミックスの原材料費が出る。そこから得られる杯数で割れば、一杯あたりの原材料費になる。バランシング表は、レシピであると同時に原価表でもあるのである。

ただし、机上の配合どおりには進まない。いくつかの「目減り」を見込む必要がある。

レモンの皮と種(Citrus limon)のスポット挿絵。皮と種——歩留まりに入らない部分。

これらを見込まずに原価を低く見積もると、価格設計そのものが狂う。第12章で説いた記録が、ここでも効く——実際の使用量とロスを記録していれば、机上ではなく実態の原材料費がつかめる。

価格をどう決めるか

原材料費に、固定費の一杯あたり負担と、確保したい利益を足していく——これが原価からの積み上げである。原材料費が売価に占める割合はフードコスト率と呼ばれ、経営の健康状態を映す代表的な指標になる。この率を継続的に見ておくことが、値付けの出発点である。

もっとも、価格は原価だけでは決まらない。同じ一杯でも、立地、店のブランド、体験の質によって、成り立つ価格は変わる。原価は「これ以下では続かない」という下限を教えてくれるが、上限を決めるのは市場と価値である。原価を無視した安売りは続かず、価値の伴わない高値も続かない——その間で、自店にとって持続可能な一点を探すのが価格設計である。

金額生産・販売量 → 固定費 総費用 売上高 損益分岐点 損失利益
Fig. 15-1 損益分岐点。売上高の線と総費用(固定費+変動費)の線が交わる点で、損失と利益が入れ替わる。ここを超えて初めて事業は続く。

この関係を一枚にしたのが損益分岐点の図である。売上高が総費用を上回る点——ここを超えて初めて、事業は利益を生み、続けられる。固定費が重いほど分岐点は右に遠ざかり、より多く売る必要が生じる。価格を上げるか、数を売るか、原価を下げるか——経営の選択肢は、この図の上で考えられる。

数字は、続けるための道具

原価計算は、けっして「安く作る」ためだけの技術ではない。良い素材を使い続けるために、いくら必要かを知る技術である。原価を正しく把握してこそ、「この果実は高いが、この価格なら使い続けられる」といった、質と経営を両立させる判断ができる。どんぶり勘定は、良い素材を諦める方向にしか働かない。

そしてその土台は、やはり記録である。配合の記録(第5章)、原料と工程の記録(第12章)——本書が繰り返し説いてきた記録は、味の再現のためであり、安全の証明のためであり、そして経営を続けるためのものでもあった。


これで、第I部から第IV部までがそろった。糖と水の物理から始まり、乳と脂肪、安定剤、バランシング、そして製造・保存・応用・経営へ。ジェラートという一つの氷菓を、科学として設計し、技術として作り、事業として成り立たせる——その一通りを歩いてきた。

だが、設計できることと、それを毎日そのとおりに出せることは、また別の技術である。残る第V部では、作り上げた構造を店の一日として回す仕事——温度の受け渡し(第16章)と工房の動線(第17章)——を扱う。

数値は地図であって、目的地ではない。地図を手にした職人が、最後の一歩を舌と経験で決める。その一歩のために、本書のすべての章がある。

章末クイズ3問
  1. 空気を多く含ませれば、同じミックスからより多くのカップが取れる。「オーバーランを上げれば原価が下がる」——本書はこの考えをどう扱うか。

  2. 原材料費に固定費の負担と利益を足して、一杯の売価を積み上げた。この額は適正価格と言えるか。

  3. 固定費が重い店ほど、損益分岐点はどうなるか。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。