ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
05

第I部 配合の理論

バランシング実践

Il bilanciamento degli ingredienti

ここまで見てきた糖・乳固形分・安定剤を、一つのミックスの中で数値としてまとめ上げる——それがバランシングである。材料ではなく成分で考え、目標のレンジに収める。第I部の知識が、ここで一枚の設計図になる。

材料ではなく成分で考える

バランシング(bilanciamento)とは、ミックスを構成する成分の比率を整える作業である。ここで発想を切り替える必要がある。「牛乳○g、砂糖○g」という材料の足し算ではなく、それぞれの材料が持ち込む成分——糖・脂肪・無脂乳固形分・その他固形分、そして水——に分解して考えるのである。

たとえば牛乳は「水+乳糖+脂肪+タンパク質+ミネラル」の集合体として、生クリームは「脂肪+水+少量の無脂乳固形分」として扱う。すべての材料をこのように成分へ分解し、成分ごとに合計する。固形分の総和が総固形分solidi totali)、残りがである。

材料 牛乳 生クリーム スクロース 脱脂粉乳 分解 成分(合計して比率に) 脂肪 無脂乳固形分 その他固形分 ← 残りが水
Fig. 5-1 同じ材料も、バランシングでは成分に分解して集計する。材料の重量ではなく、成分の比率で設計する。

バランシングとは、この成分どうしの比率、そして固形分と水の比率を、目的の質感に合うよう整えることにほかならない。

目標のレンジ

では、どこに整えるのか。ジェラートの種類によって、各成分には経験的な適正レンジがある。乳ベースのクレマ系と、水・果実ベースのソルベ系とで大きく異なる。

Tab. 5-1 主要成分のおよその適正レンジ
成分クレマ系(乳ベース)ソルベ系(果実・水ベース)
16〜22%〜33%
脂肪6〜12%基本 0
無脂乳固形分計算で求める上限まで(下記)0〜少量
その他固形分(安定剤ほか)ごく少量ごく少量
総固形分(=上記の和)おおむね 32〜42%おおむね 28〜32%

糖・脂肪の各レンジと無脂乳固形分の上限は専門文献で照合。クレマ系の総固形分32〜42%も、文献が直接に示す値である——文献はこの幅を外れたときに何が起きるかまで書いている。下回れば凍結時に氷ができて硬く冷たくなり、上回れば固形分が溶けきらずに柔らかく粉っぽくなる。ソルベ系の幅も、同じ文献の総括表が直接に示す値である

脂肪の「6〜12%」は、取りうる幅の外枠である。第3章で見たとおり、8%を超えたあたりからは、均質化が十分でなければ脂肪相が分離しうる。12%は「そこまで入れてよい」ではなく、「そこまでは配合として成り立つ」という線だと読みたい。

下の6%も同じく外枠だが、こちらは見落とされやすい。脂肪は減らせば減らすほど軽くなる、のではない。脂肪は気泡を支え(第3章)、口の中で溶けながら香りを運ぶ(第11章)。それが薄い配合は、軽いのではなく痩せていて、氷の当たりが直に舌へ来る。クレマ系を名乗る以上、下にも線がある。

この表がバランシングの「合わせ先」になる。糖を決めれば甘さと硬さ(第2章のPOD・PAC)が、脂肪と無脂乳固形分を決めればコルポと骨格(第3章)が定まる。ただし無脂乳固形分だけは、レンジではなく制約として書かれている。その理由と、上限の求め方を見ておきたい。

無脂乳固形分の上限は、計算できる

無脂乳固形分の上限は、他の成分と違って固定の数字ではない配合の残りにどれだけ水があるかで動く。だから毎回、計算して求める。

上皿天秤と分銅のスポット挿絵。成分を釣り合わせる秤。

そして制約は、二つある。互いに独立した、別の理由から来る二つである。

一つめは、水を抱える力の限界である。乳の固形分が水を抱え込むには、自重の6〜7倍の水が要る。水がそれより少なければ、抱えきれなかった固形分が残り、ザラつきの側へ傾く。

Limite s.l.n.g.

無脂乳固形分の上限 = ( 100 − 糖% − 脂肪% − その他固形分% ) × 0.15

括弧の中は、無脂乳固形分と水を合わせた残りの領域である。そこに0.15を掛ける——この式が言っているのは、「無脂乳固形分は、それと水を合わせた領域の15%まで」ということである。たとえば糖18%・脂肪9%・その他固形分1%を狙うなら、(100 − 28) × 0.15 = 10.8% が上限になる。

ここで、0.15という数字の性格を押さえておきたい。この上限いっぱいまで入れると、水は61.2%、無脂乳固形分は10.8%——水は固形分の5.7倍にしかならない。冒頭に述べた「6〜7倍」を、下回っている。つまりこの式は、抱える力の限界に対して余裕を残していない。むしろ、わずかにはみ出したあたりに線を引いている。

文献が「上限には常に余裕をもって下回れ」と職人に念を押すのは、伊達だてではない。上限とは、狙う値ではなく、近づいてはいけない線である。

二つめは、乳糖の溶解度である。第3章で見たとおり、乳糖は溶けきれなければ結晶化し、砂状の欠陥を生む。乳糖の溶解度と、ミックスが最低でも6割は水であることから、実務の目安が導かれる——乳糖は、水分部の10%を超えてはならない

こちらは、一つめの式で無脂乳固形分を決めたあとの検算として使う。先の例なら総固形分は 18 + 9 + 10.8 + 1 = 38.8%、したがって水分部は 61.2%。その10%は 6.12% だから、乳糖がこれを超えていないかを確かめる。無脂乳固形分のおよそ半分が乳糖なので、10.8%の無脂乳固形分なら乳糖は約5.4%——収まっている。

二つの制約は、いつも同じ答えを出すわけではない。先の例では、水を抱える力のほうが先に限界を迎える(10.8% 対 12%)。厳しいほうが効く。

この二つの制約が働いているからこそ、無脂乳固形分だけがレンジではなく制約で書かれている。第3章で見た砂状化を避けるためである。

糖の内訳を設計する

糖は「総量」を決めるだけでは足りない。同じ糖量でも、内訳を変えれば硬さと甘さを別々に動かせる(第2章)。文献が示す実務的な目安は次のとおりである。

そして、この三つの上限は同時には使えない。文献自身が、最大値での併用は不可能だと明記している。

果実のソルベでは、果肉自体が果糖などの単糖を持ち込む点に注意する。単糖が過剰になると氷点が下がりすぎて締まらないため、この場合はスクロースの一部を水飴に置き換えて調整する。

手順 — 目標から微調整まで

バランシングは、次の順で進めると迷いにくい。

Procedura

① 作りたい種類と質感から、Tab. 5-1の目標レンジを決める
② 主原料(牛乳・クリーム・果肉・糖)で大枠を組む
③ 各材料を成分に分解し、成分ごとに合計して%を出す
④ 総固形分・糖・脂肪をレンジと、無脂乳固形分を計算した上限と照合する
⑤ はみ出した成分を、別の材料で微調整する

④で硬さを具体的に見積もるには、第2章のPAC計算を使う。糖の内訳が決まれば、総PACは各糖の量とPAC係数の積を足し合わせて求まる。この値そのものに「正解」があるわけではない——同じ配合の中で、糖の内訳を入れ替えたときに硬さがどちらへ動くかを読むための物差しである。無脂乳固形分の上限のように式で決まるものではないから、自店の提供温度で「ちょうどよい」と判断できた配合のPACを控えておき、それを自分の基準にするほかない。⑤の微調整は一つを動かすと他が動く連立の作業だが、「水を増やさず脂肪だけ」「甘さを変えず硬さだけ」といった第3章・第2章の置き換えの引き出しがここで効く。

数値は出発点である

バランシングは配合を「正解の範囲」に入れるための技術であって、おいしさを保証するものではない。同じ数値でも、果実の熟度や乳の風味で最適解は動く。レンジに収めることは必要条件であり、十分条件ではない。

職人の視点

新しい配合は、必ず一度作って食べてから記録する。計算上は完璧でも、舌が「重い」と言えばそれが正しい。逆に、なぜかおいしくできた配合こそ数値を残す——再現できなければ、まぐれはまぐれのままだ。バランシング表は、舌の記憶を数字に翻訳して保存する道具である。

ここまでが第I部である。設計図が引けたら、次はそれを実際のジェラートに変える工程——殺菌・熟成・凍結——に進む。同じ配合でも、工程が変われば構造は変わる。第II部では、その工程の科学を扱う。

章末クイズ1問
  1. クレマ系の配合で、軽い口あたりに仕上げたくて脂肪を6%より下げようと考えた。本書の評価はどれか。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。