Approfondimento — 文中入口
部分合一 — 脂肪が気泡を支える仕組み
La coalescenza parziale
脂肪球がなぜ気泡を支えられるのか。鍵は、脂肪球が「壊れきらずに連結する」という特殊な不安定化——部分合一にある。乳化剤が乳化を弱めるという逆説も、ここで解ける。
ジェラートの構造には、一見矛盾した要求がある。上級編第1章では脂肪球のエマルションを「分散を保つべきもの」として扱い、同第3章・第4章では凍結時にそれを「部分的に壊す」ことが構造を生むと述べた。安定させたいのか、壊したいのか。この矛盾を解く鍵が部分合一(coalescenza parziale)である。乳化剤が乳化を弱めるという上級編第4章の逆説も、この一語で氷解する。
合一と、部分合一
ミックス中の脂肪は、水中油滴型のエマルションとして分散している。各脂肪球はタンパク質や乳化剤の膜に覆われ、互いに反発して分散を保つ。通常のエマルションでは、二つの油滴が膜を破って融合し一つの大きな滴になる合一(coalescence)は、避けるべき劣化である。合一が進めば脂肪は分離し、エマルションは崩壊する。
ところがジェラートでは、これに似て非なる現象が積極的に利用される。脂肪球が部分的に結晶化しているときにだけ起こる、部分合一である。液体の油滴どうしなら融合して丸い一つの球になる。だが内部に固体脂肪の結晶骨格を抱えた球は、球形に戻れない。一方の球から突き出た結晶が、もう一方の球の液状の油へ入り込む。二つの球は連結するが、結晶の骨格が邪魔をして完全には融け合えない。もとの球の形をいくらか残したまま、いびつな塊になる。こうして脂肪球は、丸い塊ではなく、不規則なクラスター(房状の連結体)として繋がっていく。これが「部分」合一と呼ばれる理由である。
なぜ、刺さったまま抜けないのか
ここで問うべきことがある。なぜ結晶は隣の球へ入り込み、しかも抜けないのか。この問いは、二つに分けなければならない。
入るほうには、力が要る。 結晶が隣の球の膜を貫くこの段階が、実は部分合一の律速である。文献によれば、脂肪球どうしが遭遇しても百万回に一度しか部分合一に至らない——つまり難しいのは出会うことではなく、膜を破ることなのである。だからせん断が効く。高いせん断応力が球どうしを押しつけ、結晶が膜を通り抜けるのを助ける。乳化剤が薄い膜をつくるほど貫通は容易になり、厚く粘弾性の高い膜をつくるほど抵抗する——上級編第4章で見た「乳化剤が乳化を弱める」逆説の、いちばん深いところがここにある。
抜けないほうは、熱力学である。 球の表面から突き出た結晶は、まわりを水に囲まれている。脂肪の結晶にとって、これは居心地の悪い状態だ。ところが隣の球の油へ入り込めば、まわりは油になる。脂肪の結晶は、水に囲まれるより油に囲まれるほうが得をする——界面のエネルギーが下がるからであり、要するに疎水性効果である。だから一度入り込んだ結晶は、そこに留まる。二つの球は、離れずに繋がったままになる。
力で入り、熱力学で留まる。 どちらか一方では説明がつかない。
同じ理屈が、時間とともに効いてくる。連結した二つの球が少しずつ融け合っていけば、水にさらされた油の面積はさらに減る。系はその方向へ進みたがる。だから部分合一でできた継ぎ目は、時間が経つほど強くなり、壊れにくくなる。クラスターは、できた瞬間がもっとも脆い。
そして、突き出し方も効く。結晶が球の表面から水の中へ長く突き出しているほど、隣の球へ入り込みやすい。結晶が球の内部に埋もれていては、刺さる相手に届かない。結晶が球のどこにできるか——内部に散らばるか、界面に並ぶか——は、冷やし方が決める。熟成が単なる待ち時間ではない理由が、ここにもある。
液体でも固体でもだめだ——熟成の意味
部分合一には、脂肪球が液体と固体を併せ持つ状態が要る。両極端は、どちらも失敗する。
全部が液体なら、起こるのはただの合一である。球は融け合って丸い大きな球になり、エマルションは壊れる。全部が固体なら、今度は融け合えない。硬い粒子どうしは、ぶつかっても寄り集まるだけで(凝集)、連結しない。突き刺さる先の液状の油が、どこにもないからである。
ただし「全部が固体なら安全」とまでは言えない。完全に結晶化した脂肪球でも、形が変わって表面積が増えれば、乳化剤が表面を覆いきれなくなる。露出した非極性の面どうしが引き合って、広く凝集することがある——部分合一とは別の道筋で、やはりエマルションは崩れる。両極端は「部分合一が起きない」だけで、「何も起きない」ではない。
液体脂肪と結晶が共存してはじめて、部分合一は成立する。結晶が骨格を保って球形への復帰を拒み、なおかつ隣の球には、結晶が入り込める液状の油がある——この両立が要る。
しかも、共存していればよいというものでもない。固体脂肪の割合を上げていくと、部分合一の起こりやすさはいったん増し、あるところで頂点に達し、そこから先は落ちていく。結晶が少なすぎれば骨格にならず、多すぎれば刺さる先の油がなくなる。部分合一がもっともよく進むのは、その中間である。脂肪は、溶けきってもいけないし、固まりきってもいけない。
この状態をつくるのが、上級編第6章で扱った熟成(maturazione)の低温である。約4℃で数時間置くと、脂肪球の内部で脂肪が部分的に結晶化する。すべては固まらず、球の内部は多くが液状のまま残る——上級編第3章で「一部だけ固まった状態がホイップ性を高める」と述べたのは、この部分結晶化が部分合一の準備だったからである。熟成は、単に味をなじませる時間ではない。脂肪に部分合一の能力を仕込む、物理的な工程なのである。
そして乳脂肪は、この点で恵まれた素材である。幅の広い温度域にわたって、部分的に結晶化した状態を保つ。だからこそ乳製品では部分合一がとりわけ重要な現象となり、アイスクリーム、ホイップクリーム、バター、マーガリンといった品々が、いずれもこの一つの原理の上に成り立っている。ジェラートもまた、その系譜にある。
なぜ、そんな都合のよいことになるのか。理由は、乳脂肪が単一の物質ではないことにある。
脂肪の融点は、脂肪酸の鎖の長さと不飽和の度合い、そしてそれがグリセロールのどの位置に付いているかで決まる。純粋なトリグリセリドが一種類だけなら、融点は一点に定まる——氷が0℃で融けるように、ある温度でぱたりと融ける。ところが天然の油脂は、融点の異なる何種類ものトリグリセリドが混じり合った、複雑な混合物である。融点の高いものから順に、少しずつ融けていく。だから融解は一点ではなく、帯になる。
しかも、単純な足し算でもない。融点の高いトリグリセリドは、融点の低いものに溶け込んでしまうからである。混合物の融け方は、成分それぞれの融け方を重みづけて足したものにはならない。
そして、この「帯」があればこそ、温度を選ぶことで固体脂肪の割合を選べる。温度がSFCを決め、SFCが部分合一を決める——熟成の温度を定めるとは、この二段の連鎖をたどって、部分合一の効き具合を選ぶことにほかならない。もし乳脂肪が単一のトリグリセリドであったなら、我々に選択肢はなかっただろう。ある温度から上は全部液体、下は全部固体——山の頂上を狙うどころの話ではない。
ただし、つまみは温度だけではない。温度を動かせない事情があるなら、融け方の違う脂肪を選ぶという手がある。融解の帯そのものが変われば、同じ温度でのSFCも変わる。さらに次の節で見るように、冷やし方も結晶の数と形を変える——そして同じSFCでも結晶の性質が違えば、部分合一の起こりやすさは大きく変わる。「SFCが同じなら同じ」ではないのである。
冷やし方が、結晶を決める
熟成が与えるのは、しかしSFCという量だけではない。どんな結晶ができるかも、冷やし方が決めている。
まず、数と大きさである。ここでも、氷とまったく同じ綱引きが起きている(深掘り02)。速く、融点よりずっと低い温度まで冷やせば、多数の小さな結晶ができる。ゆっくり、融点のすぐ下まで冷やせば、少数の大きな結晶になる。核生成の速さのほうが、結晶が育つ速さよりも、温度の低下に対して急に増すからである。氷で見た論理が、そっくりそのまま脂肪にも通用する。
質も変わる。ゆっくり冷やせば、分子は結晶格子へきちんと収まる時間がある。速く冷やせば、その暇がない——分子は雑に詰め込まれ、欠陥が多く、密に詰まっていない結晶ができる。
そして、もう一段深いところが変わる。混ざり方である。
速く冷やすと、融点の高いものも低いものもほぼ同時に結晶化する。できるのは、いろいろなトリグリセリドが親密に混じり合った均質な結晶——固溶体である。ゆっくり冷やすと、融点の高いものが先に固まり、低いものが遅れて固まる。できるのは、高融点のものに富んだ場所と乏しい場所が入り混じった不均質な結晶である。
ここが効いてくる。固溶体になるか不均質な結晶になるかで、その脂肪の融け方そのものが変わる。密度も、圧縮のされ方も変わる。
つまり、先ほど「融解の帯があればこそ温度でSFCを選べる」と書いたその帯を、冷やし方が書き換えている。温度がSFCを決めるのは正しいが、その温度とSFCの対応表そのものを、冷却の速さが作り替えているのである。
そしてもう一つ。球の中で結晶ができあがると、結晶どうしが集まって三次元の網目をつくり、液状の油を毛管の力で抱え込む。集まった結晶は、やがて部分的に融け合って網目を強くする。ここでも「できたてがいちばん脆い」——先に見たクラスターの継ぎ目と、同じ話が球の内側でも起きている。
さらに、同じ脂肪でも結晶の形そのものが何通りもある。トリグリセリドは、分子の詰め方が異なる複数の結晶形を取りうる。多形である。安定さの順は決まっていて、最も安定なのが β 形、次いで β′ 形、最も不安定なのが α 形である。ところが脂肪は、しばしば最も安定な形ではなく、準安定な形で結晶化する。そちらのほうが、核をつくるための障壁が低いからだ。生まれやすさと、安定さは別のことなのである。そして準安定な結晶は、時間をかけて安定な形へと移り変わっていく。
最後に、念を押しておくべきことがある。これらはすべて、脂肪球という小さな器の中で起きている。乳化された脂肪の結晶化は、塊のままの脂肪の結晶化と同じではない。熱の伝わり方が違い、脂肪球の表面という物理的な制約もある。結晶がどこにでき、どんな形をとり、どれだけ速く安定な形へ移るか——バルクの脂肪から得た直感が、そのまま通じるとは限らない。
せん断が引き金を引く
準備が整った脂肪球に、部分合一の引き金を引くのがマンテカツィオーネのせん断である。
せん断は、まず出会いの場を二つ用意する。一つは、水相の中で脂肪球どうしを激しく衝突させること。もう一つは、撹拌で生まれた気泡の表面に脂肪球を吸着させ、そこで隣り合わせにすることである。
そのうえで、せん断は三つの筋道で部分合一を速める。
- 衝突の頻度を上げる。 かき混ぜれば、球はより頻繁に出会う
- 衝突の効率を上げる。 せん断の場では球どうしが互いに転がり合う。突き出た結晶が隣の球に入り込む向きを取りやすくなる
- 貫通そのものを助ける。 高いせん断応力が球を押しつけ、結晶が界面の膜を通り抜けやすくする
頻度・効率・貫通——順に「出会うか」「うまく当たるか」「入れるか」に対応している。だから同じ回転数でも、乱れた流れのほうが整った流れより部分合一は速い。膜が部分的に破れて脂肪面が露出すれば(上級編第3章・上級編第4章でいう部分脱乳化)、結晶はいっそう入り込みやすくなり、部分合一は連鎖的に進む。

つまり、空気を含ませるあの撹拌そのものが、部分合一の駆動力である。凍結による氷結晶の形成が未凍結相を濃縮し脂肪球を密集させることも、衝突の頻度を上げてこれを後押しする。上級編第7章で急速な凍結撹拌が構造を決めると述べた背景には、この脂肪の連結が進んでいる。
気泡を支える網
こうして生まれた脂肪のクラスターは、撹拌で取り込まれた気泡の界面に吸着する。気泡の表面を部分合一した脂肪が覆い、さらにクラスターどうしが連なって、気泡と気泡のあいだに連続した脂肪の網目(fat network)を張りめぐらせる。
この網が、ジェラートの構造を内側から支える。気泡は脂肪の網に抱えられて安定し、崩れにくくなる。同時にこの網は、なめらかで「乾いた」質感、良好な形状保持、そして溶けへの抵抗を与える。ホイップクリームが角を立てて泡立つのも、まったく同じ部分合一の原理による。上級編第1章で四成分の一つに数えた「空気」が構造材として働けるのは、脂肪のこの縁の下の仕事があるからである。脂肪の数ある役割のなかでも、気泡を安定させるこの働きが最も重要だとされる。
もっとも、脂肪のすべてが連結するわけではない。典型的には、脂肪のうち3割ほどが部分合一した状態にあり、残りは独立した脂肪球のまま散らばっている。連結した脂肪と、単独のままの脂肪。この両方が共存しているのが、ジェラートの中の実際の姿である。
乳化剤の逆説
ここで上級編第4章の逆説が解ける。モノグリセリドのような乳化剤は、一般には「乳化を安定させる」ために使う。ところがジェラートでは、乳化剤は脂肪球膜のタンパク質を置き換えて膜を弱め、せん断時の部分脱乳化を促進するために使われる。目的は乳化の安定ではなく、適度な不安定化である。上級編第4章が乳化剤の要点を「部分脱乳化」の制御に置いたのは、この部分合一を指してのことにほかならない。
この逆説は、粒度の分布にはっきり現れる。乳化剤を入れずに作ると、脂肪球は均質化でできた1µm前後の小さな山ひとつに収まる。ところが乳化剤を加えると、その一部が不安定化し、10µm前後に第二の山が立つ——これが連結してできたクラスターである。乳化剤は、まさに山をもう一つ作るために入れているのである。
調整つまみは量だけではない。乳化剤の種類も効く。モノグリセリドの脂肪酸の尾には飽和のものと不飽和のものがあり、不飽和の尾は二重結合で折れ曲がっているため、分子どうしがきれいに詰まらず、場所を取る。その結果、膜のタンパク質をより多く追い出して界面をいっそう弱め、部分合一を進める。どの乳化剤をどれだけ使うか——その両方が、脂肪をどこまで連結させるかを決めている。
過ぎれば、バターになる
部分合一は、少なすぎても多すぎてもいけない。進まなければ気泡は支えられず、組織は粗く、溶けやすくなる。
逆に進みすぎると、何が起きるか。エマルションが裏返る。
部分合一が広く進むと、脂肪のクラスターはつながり続け、ついには水中油滴型から油中水滴型へ——水に油が散っていた状態から、油に水が散る状態へと、相が入れ替わる。相転換である。これがバター化(チャーニング)の正体で、撹拌しすぎた生クリームがバターになるのは、まさにこの転換が起きているからだ。
面白いのは、この転換そのものが、別の産業では目的になっていることである。バターやマーガリン、スプレッドの製造は、相転換を意図して起こし、油の側にできた結晶の網目で水滴を抱え込ませる工程にほかならない。網目の結晶が多すぎれば固くて塗れず、少なすぎれば自重で崩れる——だから融け方の合った脂肪を選ぶことが、その産業の最重要事項になる。
ジェラートは、この転換の手前で止める仕事である。 同じ物理を使いながら、進める側と止める側に分かれている。均質化による脂肪球の微細化、脂肪量、乳化剤量、そして熟成での結晶化度が、この均衡を決める。ジェラートの「乾いてなめらか」は、崩壊と過剰のあいだの、狭い最適点の上に立っている。
章末クイズ2問
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部分合一では、一方の球から突き出た結晶が隣の球へ入り込み、抜けなくなる。本稿の説明はどれか。
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「脂肪は完全に固まっているほど、気泡をよく支える骨格になる」——本稿はこの考えをどう扱うか。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。