ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
06

入門編 ジェラートを知る

おいしさの正体

La scienza del gusto

なめらかで、口の中でとろけて、香りがふわりと広がる。ジェラートのおいしさは、じつは偶然ではありません。その一つひとつに、ちゃんとした理由——小さな科学があります。この章では、おいしさの正体を、そっとのぞいてみましょう。

なめらかさの正体は「氷の細かさ」

ジェラートを口に入れたときの、あのなめらかさ。その正体は、第4章でも少し触れた氷の粒の細かさにあります。

ジェラートの中には、たくさんの氷の粒が入っています。この粒が大きいと、舌はそれを「ザラザラ」「ジャリジャリ」と感じてしまいます。反対に、粒がとても細かいと、舌は一粒一粒を感じ取れず、全体を「なめらか」だと感じるのです。おいしいジェラートの氷の粒は、舌が感じ取れないほど——およそ髪の毛の太さの半分ほどにまで——細かく保たれています。

粗い氷の粒→ ザラザラ 細かい氷の粒→ なめらか
Fig. 6-1 同じ氷でも、粒の大きさで口あたりはまるで違う。細かいほど、舌はなめらかだと感じる。

だからこそ、第4章で見た「凍らせながら練る」工程が大切でした。かき混ぜ続けることで、氷の粒が大きく育つのを防いでいるのです。そして、できあがったあとも冷凍庫の中で氷の粒は少しずつ育とうとします。ジェラートを「できたてがいちばん」というのは、この氷の粒が、時間とともに大きくなっていくからでもあるのです。

口の中で、とろける理由

ジェラートのもう一つの魅力は、口に入れるとすっと溶けていく口どけです。これには、温度が深く関わっています。

第1章でお話ししたように、ジェラートはアイスクリームより少し高い温度できょうされます。カチカチに凍っていないぶん、口に入れたとき、体温ですみやかに溶けはじめます。じつはジェラートの中では、水がすべて凍っているわけではありません。氷の粒のまわりには、凍らずに残った濃い蜜のような液体があり、これが氷とほどよく混じり合っています。この「凍った部分」と「凍らない部分」の絶妙なバランスが、あのとろけるような口どけを生んでいるのです。

蜜壺のスポット挿絵。濃い蜜をたたえた陶の壺。

冷たさと、香りの関係

ここで、ちょっと不思議な話をします。冷たいと、香りは感じにくくなるのです。

香りは、食べ物から立ちのぼる細かな粒が鼻に届くことで感じられます。ところが、温度が低いとこの立ちのぼりがおさえられ、香りは閉じこもってしまいます。冷たいスープより温かいスープのほうが香り高いのは、このためです。冷たいジェラートは、香りの面では最初から不利な立場にあるのです。

では、職人はどうするのか。答えは二つあります。一つは、第1章で触れたように、アイスクリームより少し高い温度で出すこと。ほんの数度の違いでも、香りの開き方は変わります。もう一つは、香りをはじめから強めに設計すること。たとえばナッツを深めに焙煎ばいせんしたり、果実をしっかり使ったり。冷たさに負けないよう、あらかじめ香りを豊かに仕込んでおくのです。ジェラートの濃い味わいは、この冷たさとの戦いの工夫でもあります。

職人の視点

温かいお菓子と同じ甘さにすると、冷たいジェラートは少し物足りなく感じることがあります。冷たさは、香りだけでなく甘さの感じ方もはっきりおさえるからです。だから職人は、「冷たい状態でちょうどいい」甘さに調整します。凍らせる前のミックスを常温で味見して驚くほど甘いのは、冷えたときにちょうどよくなるように設計されているからなのです。

おいしさは、設計できる

こうして見てくると、ジェラートのおいしさが、けっして偶然ではないことがわかります。

なめらかさは、氷の粒を細かく保つ工程から。とろける口どけは、温度と、凍った部分・凍らない部分のバランスから。豊かな香りは、冷たさを見こした温度と味の設計から。おいしさの一つひとつに、理由がある——これが、ジェラートという氷菓のいちばん面白いところかもしれません。

そしてうれしいことに、こうした仕組みのいくつかは、家庭でも試すことができます。次の章では、おうちでジェラート作りを楽しむためのヒントを見ていきましょう。

章末クイズ3問
  1. 凍っているジェラートの中で、水はすべて氷になっているのでしょうか。

  2. ジェラートは「できたてがいちばん」と言われます。この章が挙げている理由はどれでしょう。

  3. 作りたてのミックスを常温で味見すると、驚くほど甘く感じることがあります。なぜでしょう。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。