ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
03

入門編 ジェラートを知る

素材のはなし

Gli ingredienti

ジェラートは、驚くほど少ない材料からできています。牛乳、砂糖、そして季節の果物。数えるほどの顔ぶれです。けれど、その一つひとつには、ちゃんと役割があります。材料の「仕事」を知ると、いつもの一杯が少し違って見えてきます。

少ない材料が、それぞれ働く

ジェラートの材料は、じつはとてもシンプルです。基本になるのは、牛乳や生クリームといった乳製品、甘みをつける砂糖、そして主役になる果物やナッツ。これだけです。

大切なのは、それぞれの材料が別々の「仕事」を持っているということ。ある材料は土台をつくり、ある材料は甘さを、ある材料は香りを受け持ちます。おいしいジェラートとは、この役割分担がうまくかみ合った一杯のことなのです。ここでは、おもな材料を役割ごとに見ていきましょう。

牛乳・生クリーム 土台とコクをつくる 砂糖 甘さ + やわらかさ 果物・ナッツなど 香りと個性(主役) 安定剤 なめらかさを保つ(陰の力持ち) 卵(クレマ系) コクとまとまり
Fig. 3-1 ジェラートのおもな材料と、それぞれの役割。少ない顔ぶれが、別々の仕事を分担している。

土台をつくる — 牛乳と生クリーム

ジェラートの土台は、牛乳や生クリームといった乳製品です。牛乳は、そのほとんどが水分で、ジェラートのベース(下地)になります。それだけでなく、乳に含まれるタンパク質などが、ジェラートに骨格とまとまりを与えてくれます。

生クリームは、乳の脂肪分をたっぷり含んだ材料です。加えると口あたりがなめらかになり、コク——ジェラートの「濃さ」や「満足感」——が増します。第1章で触れたように、ジェラートは脂肪を控えめにしますが、まったくのゼロではありません。この少しの脂肪が、なめらかさと風味の運び手になります。牛乳と生クリームの割合を変えることで、軽やかにも、リッチにも仕立てられるのです。

甘さと、なめらかさ — 砂糖

砂糖は、もちろん甘さをつけるための材料です。けれど、ジェラートにおける砂糖の仕事は、それだけではありません。じつは砂糖には、ジェラートをやわらかく保つという、もう一つの大切な役割があります。

砂糖を水に溶かすと、その水は凍りにくくなります。だからこそ、砂糖の入ったジェラートは、冷凍庫の温度でもカチカチに凍りきらず、スプーンですくえるやわらかさを保てるのです。甘さの調整は、そのままジェラートの「かたさ」の調整でもある——これはジェラート作りのいちばん面白いところの一つで、くわしくは姉妹編の上級編で扱います。ここでは「砂糖は、甘くするだけの材料ではない」とだけ覚えておいてください。

主役の香り — 果物・ナッツ・コーヒー

ここまでの材料が土台だとすれば、ジェラートの主役になるのが、香りと個性を与える素材です。旬の果物、香ばしいナッツ、コーヒーやチョコレート、お茶——。ジェラテリアのショーケースを彩る豊かな顔ぶれは、この素材の違いから生まれます。

ジェラートが素材の味をまっすぐ映すことは、第1章で見たとおりです。だからこそ、素材そのものの質がそのまま一杯の質になります。よくれた果実、ていねいに焙煎ばいせんされたナッツ——作り手が素材選びに心を配るのは、ごまかしがきかないからにほかなりません。

陰の力持ち — 安定剤

材料表の最後のほうに、ときどき見慣れない名前を見かけます。その代表が安定剤自由な水を抱え込み、氷の粒が大きく育つのを抑えてなめらかさを保つ材料。海藻や豆などに由来する食物繊維の仲間。です。名前だけ見ると身がまえてしまうかもしれませんが、その多くは海藻や豆など、自然の素材からとれた食物繊維の仲間です。

安定剤の仕事は、ごく少量でなめらかさを保つこと。水をやさしく抱え込むことで、氷の粒が大きく育つのを抑え、時間が経ってもザラつかない口どけを守ります。まさに縁の下の力持ち。ふだんは気づかれないけれど、いないと困る——そんな存在です。

クレマの伝統 — 卵

ジェラートのなかには、(とくに卵黄)を使うものがあります。乳を土台とするコクのある系統がcrema(クレマ)で、卵黄を加えるのは、その中でコクをさらに深める伝統です。卵黄は、水と脂肪をなじませてまとまりを与え、独特のコクを生みます。

割った卵と卵黄のスポット挿絵。クレマ系に用いる卵と、殻から取り出した卵黄。

いっぽうで、果物を主役にするさっぱりした系統では、卵を使わないことも多くあります。この「乳を使うクレマ系」と「乳を使わない果物系」という二つの大きな流れについては、第5章「クレマとソルベ」でくわしく見ていきます。

材料を知れば、味がわかる

牛乳と生クリームが土台をつくり、砂糖が甘さとやわらかさを、果物やナッツが香りを、安定剤がなめらかさを、そして卵がコクを——。少ない材料が、それぞれの持ち場でしっかり働いている。それがジェラートです。

材料の役割がわかると、次に気になるのは「これらがどうやって一杯のジェラートになるのか」でしょう。次の章では、その作られ方——素材が混ぜられ、冷やされ、練られて、あの姿になるまでの道のりを追いかけます。

章末クイズ3問
  1. 砂糖には、甘さをつけるほかに、もう一つ大切な仕事があります。それはどれでしょう。

  2. 材料表で見かける「安定剤」について、本書の説明に合うのはどれでしょう。

  3. もう少しコク——濃さや満足感——のある仕立てにしたいとき、割合を増やすのはどの材料でしょう。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。