Approfondimento — 章末入口
オーバーランと気泡 — 空気という第四の素材
L'overrun e l'aria
空気は、たまたま入るのではない。設計して「入れる」第四の素材である。オーバーランとは何を測る数字か、そしてなぜ量より気泡の大きさが物を言うのかを解く。
上級編第1章は、ジェラートを構成する四つの相の一つに「気泡」を数えた。氷・脂肪・未凍結相と並ぶ、れっきとした構造材である。だが空気は目に見えず、重さもほとんどないため、設計対象として見落とされやすい。本稿は、この第四の素材を正面から扱う。鍵となる数字がオーバーラン(overrun)である。
オーバーランとは、増えた体積である
マンテカツィオーネでミックスを凍らせながら撹拌すると、その中に空気が抱き込まれ、体積が増える。この体積の増加率を百分率で表したものがオーバーランである。
Overrun
もっとも、現場で体積を測るのは面倒である。そこで実務では、同じ容器を使って重さを量る。空気はほとんど質量を持たないから、同じ容器に詰めたミックスとジェラートは、体積が同じで質量だけが違う。つまり密度の比を取れば、体積を測らずにオーバーランが求まる。
Calcolo — 計算
決まった容量のカップに擦り切りで詰めて量る——ただそれだけで、この数字は出せる。

たとえばオーバーラン100%なら、体積はもとの2倍——できあがったジェラートの半分は空気ということになる。工業的な製品はポンプで空気を圧入するため、この値は容易に100%を超える。対して職人のジェラートは、撹拌で自然に抱き込む範囲に留める。目安として、乳ベースのものでおおむね35〜40%を超えず、果実(水ベース)のものは保護膜をつくるタンパク質と脂肪が乏しいぶん20〜30%程度に収まる。そして、この「35〜40%」は平均値であって、規則ではない。文献はもう一段先を示している。
Regola
総固形分が32%のミックスならオーバーランも32%前後、38%なら38%前後、という当て方である。固形分が空気を支える量を決める——そう読める規則になっている。35〜40%という帯は、クレマ系の総固形分がおおむね32〜42%(上級編第5章)に収まることの裏返しにすぎない。
ただし文献は、この規則を水ベースには当てはめないとはっきり断っている。果実のソルベは、糖が高く卵も脂肪もないぶん自然に空気が入りにくいので、別枠で25〜30%程度を満足できる水準とする。規則が及ぶ範囲まで、規則の一部である。
逆に、空気を意図して減らす手もある。狙いを濃く締まった一杯に置くなら、シリンダーに入れるミックスの量を増やせばよい。庫内に残る空気の体積がそのぶん小さくなるので、抱き込まれる空気も自然に減る。配合を変えずに、装填量で調節できる。
そして、空気が増えると起きることをもう一つ。空気が多いほど、氷結晶も気泡も小さくなる。結果としてジェラートは冷たさを感じにくく、融けにくくなる。空気は「かさ増し」ではなく、冷たさと融け方を動かす設計変数である。
入門編第1章で見た「密度が高く濃い」というジェラートの個性は、この低いオーバーランの直接の帰結である。同章の結論「濃いのに、重くない」のうち、濃いのほうは、空気が少ないというこの一点で説明がつく(重くないは脂肪の話なので、深掘り07 と入門編第8章の後味へ回る)。
気泡は、何をしているのか
なぜ空気を入れるのか。まったく入れなければ、凍ったミックスは硬い氷の塊になり、すくうことも口どけを楽しむこともできない。気泡は、いくつもの仕事をしている。
第一に、組織を軽くし、すくいやすくする。第二に、氷結晶のあいだに割って入り、氷を薄めて冷たさとザラつきの印象を和らげる。第三に、微細な気泡はそれ自体が口あたりのなめらかさに寄与する。空気は「かさ増し」ではなく、食感と口どけを積極的に作る素材なのである。ただし入れすぎれば、味は薄まり、コルポ(corpo)は失われる。ジェラートが低オーバーランを選ぶのは、濃さと軽さの均衡を、軽さに寄せすぎない一点に置いているからである。
量より、気泡の大きさ
ここが核心である。オーバーランという数字は空気の量を表すが、口あたりを決めるのは量そのものより気泡の大きさと均一さである。氷結晶(深掘り02)とまったく同じ構図がここにもある。
微細で均一な気泡は、なめらかでクリーミーな組織を生む。逆に、粗く不揃いな大きな気泡は、スカスカした頼りない食感——上級編第13章が挙げる「スポンジ状」の欠陥——をもたらす。同じオーバーラン30%でも、細かい気泡が一様に散っているか、大きな泡がまばらにあるかで、品質はまるで違う。空気もまた、氷や脂肪と同じく、「粒の細かさ」で語るべき素材なのである。
気泡は、系全体の産物である
では、微細で均一な気泡は、どうすれば得られるのか。答えは、これまでの深掘りがすでに与えている。空気を細かく折り込むのは、マンテカツィオーネの機械的なせん断である——氷の核を量産するあの撹拌(深掘り02)が、同時に空気を巻き込み、微細な泡へと砕く。
そして、空気が入るのは凍結のごく初めだけである。
文献は温度で線を引く。0℃から−4℃のあいだ——ここが空気を抱き込む窓であり、−4℃を下回るとジェラートはもう空気を取り込まない。だから凍結は、途中で止めてはならない。止めれば抱き込んだ空気は抜け出し、製品はその場で崩れる。
この一文は、実務の順序を決めてしまう。「あとで空気を足す」ことはできないのである。オーバーランは、マンテカトーレの最初の数分で決まり切っている。深掘り02で見た氷の核も同じ数分で決まるのだから——その数分に、この工程のほとんどが詰まっている。
熟成の側にも一つ条件がある。ミックスを+4℃より高い温度で入れると、熟成のあいだに既に抱き込まれていた空気を失う。冷えていることは、空気のためでもある。
どの素材が空気を助け、どの素材が邪魔をするかも、文献は分けて挙げている。
- 助けるもの——卵黄、卵白、適量の安定剤、脱脂粉乳、カゼイン塩、一部のミネラル
- 邪魔をするもの——脂肪が多い、無脂乳固形分が多い、糖が多い、カカオが多い、ナッツペーストが多い、カルシウム塩が過剰
脱脂粉乳が両方に出てくることに注意したい。適量なら助け、多すぎれば邪魔をする。上級編第3章で見た「無脂乳固形分は上下から挟まれている」という話が、ここでも同じ形で現れる。
なお、果実のソルベに生の卵白を加えて膨らませる手は勧められない。ひとつは衛生上の理由で、そのあと加熱を受けないミックスに生の卵白を入れるのは危うい(使うなら殺菌済みのものを選ぶ)。もうひとつは構造上の理由で、卵白で膨らませた氷菓は安定剤が足りないと離水を起こし、しぼみやすい。
だが、砕いただけでは泡はすぐに大きくなってしまう。それを押しとどめる仕組みが、二つある。
一つは、タンパク質の吸着である。乳タンパクは気泡の表面に集まり、親水部をマトリクス側に、疎水部を空気側に向けて並ぶ。これが界面の表面張力を下げ、後で見る粗大化の駆動力そのものを弱める。加えて、吸着したタンパクの層は立体的な邪魔者となって、泡どうしがくっつくのも妨げる。
もう一つは、脂肪球の吸着である。部分合一した脂肪のクラスターが気泡の表面に貼りつき、粒子の鎧のように泡を覆う(深掘り05)。固体粒子が界面に吸着して分散を安定させるこの様式は、ピカリング安定化(stabilizzazione di Pickering)と呼ばれる。さらに、粘い未凍結相(深掘り04)が泡どうしの移動そのものを鈍らせる。
ここで、ジェラートとホイップクリームの違いが効いてくる。ホイップクリームは脂肪が3割を超え、気泡の表面をすべて脂肪で覆えるだけの量がある。だから乳化剤を加えなくても、脂肪だけで泡を支えきれる。対してジェラートは脂肪が少なく、表面を覆いきれない。足りないぶんを補うために乳化剤で部分合一を促してやる必要がある——上級編第4章が乳化剤を要したのは、この差による。
つまり良質なオーバーランとは、脂肪・タンパク・安定剤・撹拌が噛み合ってはじめて実現する、系全体の産物なのである。オーバーランの数字だけを追ってもよい気泡は得られない。上級編第7章で機械の性能を重んじたこと、第3・4章で脂肪と安定剤を論じたことは、すべてこの一点で結びつく。
気泡もまた、育つ
そして、ここに見落としてはならない事実がある。微細な気泡の分散もまた、放っておけば粗大化する。氷結晶(深掘り03)とまったく同じく、空気にも「できたてがいちばん」が当てはまるのである。
実際、フリーザーを出た直後に20µmあまりだった平均径は、硬化を経るだけで倍近くに育つ。さらに温度変動にさらされれば、100µmを超える泡さえ現れる。気泡は、作った瞬間が最も細かい。
粗大化の道筋は二つある。一つは合一——隣り合う泡が接し、あいだの膜が破れて一つになる(脂肪球のときと同じ理屈である)。もう一つが不均化(sproporzionamento)で、こちらは少し込み入っている。
泡の内側は、表面張力に締めつけられて外より圧力が高い。その圧力差 Δp は、泡の半径 r が小さいほど大きくなる。
Legge di Laplace
γ=表面張力、r=気泡の半径
そして気体の溶けやすさは圧力に比例する(ヘンリーの法則)。つまり小さい泡の中の空気ほど、まわりのマトリクスに溶けやすい。溶けた空気はマトリクスを拡散し、圧力の低い大きな泡のところで再び気体に戻る。こうして空気は小から大へと正味で移動し、小さい泡は消え、大きな泡が育つ。
この筋書きに見覚えがあるはずだ。小さいものほど不安定で、大きいものに食われる——深掘り03で見た氷のオストワルド成長と、まったく相似である。あちらは小さい結晶ほど溶解度が高いことが駆動力だった。こちらは小さい泡ほど圧力が高く、それゆえ溶けやすいことが駆動力になる。氷も空気も、同じ論理で粗大化していく。
だからこそ、先に述べた二つの安定化——タンパクによる表面張力の低下と、脂肪によるピカリング安定化——が効いてくる。表面張力γを下げれば、Δp が小さくなり、不均化の駆動力そのものが弱まる。泡を細かく作ることと、細かいまま保つことは、別の仕事なのである。
こうして四つの相——氷・脂肪・未凍結相・気泡——の設計が出そろう。それらが最終的に「口どけ」という一つの感覚にどう統合されるかは、レオロジー(深掘り10)の主題である。
章末クイズ2問
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クレマ系のオーバーランを、どこに合わせるか。文献が示す規則はどれか。
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オーバーランが目標より低く仕上がりそうだ。「凍結の後半で、もう一度強く撹拌して空気を足そう」——この手は通るか。
選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。