ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
09

入門編 ジェラートを知る

ジェラテリアの歩き方

Come scegliere una gelateria

最後の章です。ここまで読んだあなたは、もう以前と同じ目でショーケースを見ることはできません。色、盛りつけ、顔ぶれ——そこには、作り手の考えが表れています。学んだ知識を手に、ジェラテリアの扉を開けてみましょう。

食べる目が、育った

ここまでの八つの章で、あなたはジェラートの仕組みをひととおり知りました。何からできていて、どう作られ、なぜおいしいのか。この知識は、ただの雑学ではありません。いいジェラートを見分ける目として、これから何度も役に立ちます。

この最終章は、いわば実地編です。ジェラテリアのショーケースの前に立ったとき、どこを見れば作り手の心が読めるのか。いくつかの手がかりを、いっしょに見ていきましょう。ただし先にお断りしておくと、これらはあくまで手がかりであって、絶対の法則ではありません。例外はいくらでもあります。最後の判断は、いつもあなたの舌に委ねられています。

いい兆し ・自然で、落ち着いた色あい ・控えめな盛りつけ ・季節で変わる顔ぶれ 気をつけたいサイン ・不自然に派手な色 ・高くそびえる山盛り ・一年中まったく同じ品ぞろえ
Fig. 9-1 ショーケースを読むための手がかり。いずれも食べる前に外から見える範囲の話で、あくまで傾向。味わいは前章の七つの言葉で、最後は自分の舌で確かめる。

色を見る

まず、色です。ジェラートの色は、素材そのものの色を映します。だから、本物の素材で作られたジェラートの色は、意外と地味で落ち着いていることが多いのです。

たとえばピスタチオ。本物のピスタチオから作れば、色はくすんだ緑がかった茶色になります。もし、目のさめるような鮮やかな緑だったら、それは色をおぎなう何かが加えられているのかもしれません。バナナも同じで、本来は灰色がかった白っぽい色。あざやかな黄色は、バナナそのものの色ではありません。派手すぎる色は、いったん立ち止まる合図——これは覚えておいて損のない手がかりです。

殻付きピスタチオ(Pistacia vera)のスポット挿絵。殻を割ると緑の種子が現れる。

盛りつけを見る

次に、盛りつけ方です。ショーケースの中で、ジェラートが高く、ふんわりとそびえ立っているのを見たことはありませんか。見た目は華やかですが、あの高い山を保つには、多くの空気を含ませたり、形をささえる工夫を強めたりする必要があります。

第1章を思い出してください。ジェラートは本来、空気が少なく、密度が高いものでした。伝統的なジェラートは、金属の容器にひっそりと、平らに近い形で納められていることが多いものです。ふたをして冷やすこの方法は、ジェラートを温度変化や乾燥から守ります。うずたかい山よりも、慎ましいたたずまいのほうに、かえって作り手の実力が表れていることがあるのです。

もうひとつ、表面も見てみてください。へらですくったあとの跡が、どんなふうに残っているか。ジェラートは、押せば流れ、力を抜けば止まる——前章でコシと呼んだ、あのふるまいをします。イタリアの職人はこのすくいやすさをspatolabilitàと呼び、仕上がりを見るときの目安のひとつにしています。つまり表面に残った跡は、口に入れる前にコシを外からのぞいた姿でもあるのです。ぼろぼろと崩れているのか、なめらかな刃の跡が残っているのか、それとも流れて跡が消えているのか。どれもそのまま、その一杯の状態を伝えています。

顔ぶれと、佇まいを見る

三つめは、フレーバーの顔ぶれです。季節によって品ぞろえが変わる店は、その時々の旬の素材を使い、店で作っているしるしといえます。真冬に旬でないはずの果実がいつも同じように並んでいたら、少し立ち止まって考えてみてもよいかもしれません。

こうした手がかりは、どれも前の章で学んだこと——素材の質(第3章)、空気の量(第1章)、鮮度——の裏返しです。いいジェラートの条件を知っていれば、その条件が満たされていそうかを、外から少し推し量れる。知識は、こんなふうに働きます。

そして、味わう

とはいえ、ここまでの手がかりは、すべて食べる前の話にすぎません。色が地味でも平凡な味のこともあれば、少し派手でも見事な一杯もあります。最後の審判は、やはり口の中で下されます。

ひと口ふくんだら、前章の七つの言葉を思い出してみてください。三つのコマで、それぞれいちばん強かったものを一つ選ぶ——それだけで、その一杯はもう「なんとなくおいしい」ではなくなっています。自分の舌で確かめて、自分の言葉で語れること——それこそが、この本があなたに贈りたかったものです。

職人の視点

気になることがあれば、お店の人に尋ねてみるのもおすすめです。「これは何の果物を使っているんですか」「今日のおすすめは」。素材に自信のある店ほど、その問いを喜び、うれしそうに語ってくれるはずです。作り手との小さな対話は、一杯をもっとおいしくしてくれます。

旅の、おわりに

牛乳と砂糖と果物という、ささやかな素材の話から始まった旅も、ここで一区切りです。ジェラートが何であり、どう作られ、なぜおいしく、どう選べばいいのか。あなたはもう、その物語を知っています。

次にジェラテリアのショーケースの前に立つとき、そこはもう、ただ甘いものが並んだ場所ではないはずです。一つひとつの色や佇まいに、作り手の考えが読める。それはきっと、以前よりも少しだけ豊かな時間になるでしょう。

そしてもし、あなたのなかに「作る側の世界を、もっと深く知りたい」という気持ちが芽生えたなら——そのときは、姉妹編『配合の科学』が待っています。数字と理論で氷菓を設計する、プロフェッショナルの世界です。けれどそれはまた別の物語。まずは、学びたての目で、お気に入りの一杯を探しに出かけてください。すてきなジェラートとの出会いを、心から願っています。

章末クイズ3問
  1. 本物のピスタチオから作ったジェラートは、どんな色をしていることが多いでしょう。

  2. ショーケースの中で、高くふんわりとそびえ立つジェラートの山。本書の読み方に合うのはどれでしょう。

  3. すくったあとの表面に残る、へらの跡。本書は、前章の七つの言葉のどれを「外から覗いた姿」だと言っているでしょう。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。