ジェラートの教科書 Il manuale del gelato
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入門編 ジェラートを知る

ジェラートとは何か

Che cos'è il gelato

ジェラテリアのショーケースの前で、ふと思うことはありませんか。これはアイスクリームと、いったい何が違うのだろう、と。同じ「冷たくて甘いもの」に見えて、ジェラートにはジェラートならではの理由があります。まずはそこから始めましょう。

ジェラートは「凍ったもの」

gelatoという言葉は、イタリア語でそのまま「凍ったもの」を意味します。イタリアでは、冷たいお菓子をひっくるめてこう呼びます。つまりジェラートとは、なにか特別な一品の名前ではなく、イタリア生まれの氷菓ぜんたいを指す、おおらかな呼び名なのです。

その中心にあるのは、街の小さな工房で、職人がその日に作るという文化です。gelateria(ジェラテリア)の多くは、大きな工場ではなく店の奥で毎日、ジェラートのもとになる液を仕込み、できたてをショーケースに並べます。だからジェラートは、旬の果物やその土地の素材と相性がよく、季節とともに顔ぶれが変わります。「できたて」と「素材」——この二つが、ジェラートという氷菓の土台にあります。

盛りべらのスポット挿絵。金属の平らな刃でジェラートを切り取って盛る。

アイスクリームと、どこが違うのか

では、私たちがよく知るアイスクリームとは何が違うのでしょうか。見た目は似ていても、大きな違いが三つあります。どれも、口に入れたときの感じ方に直結します。

① 空気が少ない

冷たいお菓子は、材料をかき混ぜながら凍らせて作ります。このとき、中にはたくさんの空気が抱き込まれます。この空気の量をオーバーラン凍らせるときに、どれだけ空気が入ったかを示す割合。多いほど軽くふくらみ、少ないほど密度が高く濃厚になる。と呼びます。

アイスクリームは、この空気をたっぷり含ませて、ふんわりと軽く仕上げます。一方ジェラートは、空気の量を控えめにします。だから同じ大きさでも中身がぎゅっと詰まっていて、ひと口の密度が高い。味が濃く、しっかり感じられるのはこのためです。

② 脂肪が少ない

ジェラートは、生クリームや牛乳の脂肪分が、アイスクリームよりも控えめです。脂肪は口あたりをなめらかにする一方で、多すぎると舌の表面を覆って、素材本来の香りを閉じ込めてしまいます。

脂肪を控えることで、ジェラートは口の中が軽く、果物やナッツ、コーヒーといった素材の香りと味がまっすぐ立ちのぼります。素材を主役にするための、意図した引き算なのです。

③ 少し高い温度で食べる

意外に思われるかもしれませんが、ジェラートはアイスクリームより少し高い温度きょうされます。カチカチに凍らせず、やわらかい状態でショーケースに並ぶので、スプーンですっとすくえて、口に入れるととろけていきます。

そしてこの温度の違いは、香りにも効きます。冷たすぎると舌の感覚は鈍り、香りも閉じてしまいます。ジェラートの少し高めの温度帯では、素材の香りが開いて、より豊かに感じられるのです。

「濃いのに、重くない」

この三つ——空気が少ない、脂肪が少ない、温度が少し高い——が重なると、ジェラートならではの、一見矛盾した個性が生まれます。

ジェラート アイスクリーム 空気(オーバーラン) 少なめ 20〜40% 多め 100%超も 脂肪 軽い 4〜8% 多め 10%以上 食べる温度 −20℃ −14℃ −8℃ −18℃前後 −14℃前後
Fig. 1-1 ジェラートとアイスクリームのおおまかな比較。ジェラートは空気と脂肪を控え、少し高い温度で食べる。数値はおおよその目安。

空気が少ないから、味は濃い。脂肪が少ないから、後味は重くない。温度が少し高いから、香りが開く。この「濃いのに、重くない」という感覚こそ、ジェラートを食べたときのいちばんの印象であり、ジェラートらしさの正体です。

職人の視点

「できたて」を大切にするのは、味のためだけではありません。空気が少なくやわらかいジェラートは、時間が経つと風味も食感も敏感に変わります。だからこそ職人は、その日のぶんをその日に作る。ショーケースの一杯は、いつも「今がいちばん」の状態で並んでいます。

「ジェラート」という呼び名のこと

ひとつ、豆知識を。日本の法律では、冷たい乳製品のお菓子は、含まれる乳固形分(乳の成分のうち、水分をのぞいた部分)の量によって「アイスクリーム」「アイスミルク」「ラクトアイス」などに分類されます。実は「ジェラート」という言葉は、この法律上の区分名ではありません。

ジェラートとは、区分の名前ではなく、イタリア流の作り方と考え方を指す呼び名なのです。ですから同じ「ジェラート」でも、お店ごとに設計はさまざま。この呼び名の背景にある製法や、日本での表示のルールは、姉妹編である上級編『配合の科学』でくわしく扱います。この本では、まずは作り方の心と、おいしさの仕組みを追いかけていきましょう。

この本の歩き方

入門編『ジェラートを知る』は、ジェラートを楽しむ人の目線で巡る読み物です。この先の章では、ジェラートの歴史をたどり(第2章)、どんな素材からできているのかを知り(第3章)、一杯ができるまでの道のりを追い(第4章)、二つの大きな系統であるクレマとソルベを見分け(第5章)、おいしさの科学をのぞき(第6章)、家庭での作り方を試し(第7章)、味わいに名前をつける言葉を手に入れ(第8章)、そしてジェラテリアの歩き方(第9章)へと進みます。

読み終わるころには、いつものショーケースが、少し違って見えるはずです。それでは、始めましょう。

章末クイズ3問
  1. ジェラートはアイスクリームより味が「濃い」と言われます。その主な理由はどれでしょう。

  2. 食べるときの温度は、ジェラートとアイスクリームのどちらが高いでしょう。理由もあわせて選んでください。

  3. 「ジェラート」という言葉について、正しいのはどれでしょう。

選ぶと、その場で答え合わせになります。外れても、消していけば道が残ります。